食費一万円は可能か

食費一万円は貧乏人にとっては目標の一つである。 しかし、それで健康をそこなっては意味がないし、 まずい物を乏しい量食うことで達成しても長つづきしない。 まともなものをまともな量、それもそう苦労せずに達成してこそ意味があるのだ。

さて、まずは主食である。主食といえば米なのだが、 これをまず玄米にすると栄養が爆発的に増える。 水につけろ、とか圧力釜を使え、とかいわれるが、 普通に炊飯器にいれて炊いても、若干殻が硬いものの食うことはできる。 おいしく炊きたければビタクラフトなべやら圧力鍋があるといいが、 そこまでするのもイヤだろう。 さて、水加減は玄米1に対して水1.5程度だ。 玄米は10kg4000〜4500円程度と高めではある。 玄米は外側まで食うから農薬バリバリの米ではダメなために、 いい米を使うことになって高くなるからだ。 しかし、栄養の比を考えれば白米よりもはるかに安い。 なにより、これだけ食っていても 相当な期間もちこたえられるという事実は大きかろう。 その栄養をさらに強化し、味も豊かにしてくれるのが大麦だ。 よくみかける押麦ではなく、色の濃い裸麦だ。脱穀しただけのものである。 繊維が豊富で、他にも玄米にないものを補ってくれる。 1キロ360円程度。 こいつを玄米と混ぜて炊く。 私は面倒なので1:1で混ぜているが、比率はどうでもいい。 水加減は玄米と同じでいいので楽だ。 さて、この麦飯を毎日2合食ったとして月4000円。 2合といっても白米の2合よりもよほど多く感じられる。 おそらくこれだけ食っていても並みの ひとりぐらしの人間より健康的だし、おそらく相当な期間、 下手をしたら永久にもちこたえられるかもしれないのだが、 やはりたんぱく質がほしいところではある。

たんぱく質といえば肉だが、肉は脂肪が多く、値段が高く、 保存が効かない。冷凍すればいいが、解凍が面倒だし、 冷凍庫の場所は食うし、冷凍期間が長いと味も栄養も落ちる。 結果しょっちゅう買いに行かねばならず面倒である。 そこで豆だ。それも豆の王、大豆である。 通販(豆のすずきなど) で一気に買う場合は値段も安い。 とにかくこの豆の食い方の真髄は発芽させてから食うことである。 一晩水につけて、ザルにあけて軽く穴をあけたポリぶくろをかぶせて そこらへんにおく。 一日1〜2回流水であらいながら3日もすれば芽が数ミリ生える。これで収穫である。 こいつを15分〜30分も蒸せばそのまま食える。 とにかく発芽させると栄養も味も段違いによくなるのだ。 また、そうやって発芽させている途中の奴を適当にとってメシに混ぜれば おかずなしても食べられるおいしい豆ごはんになる。 私は前述の麦飯をさらに発展させて、大豆も米と等量入れている。 水で戻す前のもので等量だから、かなり豆が多い。 発芽した奴だとよりおいしいのだが、 水で戻してあればちゃんと炊けるし十分おいしいのだ。 私にとってはこの玄米と麦と大豆を1:1:1混ぜて炊いたものが主食である。 ちなみに大豆は10キロ買ったとしてコストは6750円。 キロ675円と安いといっていい。

そんなこんなで 月2000円分も豆を食えば、もう十分であることが保証されるだろう。 また、ものぐさな人は納豆も安い。探せば100g50円で売っている店はみつかるので、 それですますと良い。冷凍すれば相当保つ。

そして野菜だ。 安い野菜といえば、じゃがいも(中一個20円)、 たまねぎ(中一個20円)、チンゲンサイ(中2株100円)、 大根(一本100円)、かぼちゃ(一個200円)、ピーマン(1個10円)、 ブロッコリー(1株100円)、にんじん(小3本あるいは中2本で100円)などがある。 買いものにいった時に()内の値段のものだけを買えば、 一日平均100円はたやすい。

たまねぎとじゃがいもは保存がきくので、安い時に大量に買っておくと楽でいい。 たまねぎは炒めてダールにブチこめばおいしいし、 スープものならなんでも入れられる。 うすぎりにしてサラダにまぜておいてもおいしい。 じゃがいもは蒸しても焼いても食えるし、 スープの具としてもいい。ゆでてサラダにすれば数日もつ。 全般によほど汚れていて落ちなかったり緑色になったりしていない限りは 皮をむかない方がいい。 キャベツやチンゲンサイやピーマンは炒めてしまえば楽でおいしい。 かきソースや豆板醤を常備しておくと飽きがこない。 キャベツの葉は加熱しすぎるとイヤな味になるので、煮る時は最後にいれて 3分以内にしよう。芯は大丈夫だ。 ブロッコリーは蒸して食えばおいしい。何もかけなくてもいいし、 適当になにかかけて食ってもいい。冷蔵庫で数日持つ。炒めてもいい。 もちろん茎まで食わないと高くつく。 大根はおろしても、煮て食ってもいい。煮る場合にはダシか魚のアラがほしいので、 それができないなら大根はやめよう。 かぼちゃは蒸しておけば冷蔵庫で数日もつ。 少量醤油と酒をかけると味が深くなる。 なお、煮ると味がぬけるので煮るのは避けた方がいい。 にんじんは炒めても煮ても蒸してもいい。 ちなみに、にんじん、大根、じゃがいもはきれいに洗えば皮をむく必要はない。 面倒な上に食う分が減るだけである。 せいぜい傷のあるところや変色したところを除く程度でいい。

他にも里芋なんかは比較的安く、ダシ汁を作れるなら煮て食える。 もちろん冷蔵庫で数日もつ。ただ、皮をむくのが面倒だ。 長芋はおろしてメシにかけて食うだけでおいしいので、常備してもいい。 ぬれた新聞紙にくるんでおくとかなりもつが、 実はそんなことをしなくても食えなくなるのには時間がかかる。 ほうれんそうや小松菜はたいがい高いが、安ければ買いたい。 炒めても食えるし、軽く(せいぜい十数秒)ゆでてダシ汁につけておけば何日も おひたしが食える。かぶも煮ればおいしい。もちろん皮はむかなくていい。 葉のついたものを買おう。煮ればおいしいし、栄養がある。

ここまでで9000円。もはや栄養が足りないことはあるまい。 すこし多めに計算しているので、 実際には1000円くらい減ることも考えられる。 それで魚や、ダシグッズが買える。面倒なら納豆、牛乳、卵などに回してもいい。 これらもコストの割に栄養があってすぐ食える優れた食い物である。 また、朝飯用即席穀物つめあわせがよく売っているが、あれもいい。 だがここでケロッグ社のものを思いうかべてはいけない。あれは高すぎるのだ。 実は輸入物の中に異様に安いものがある。 キロ900円程度だ。えらそう系スーパーにはけっこうな頻度でみつかる。 あれに牛乳をかけて食えば面倒な時にも完璧である。 栄養も味も申し分ない。

魚やダシは市場にいかなければしんどいのだが、 行く気力があるならさらにいいものを食える。 昆布の耳をキロで買いこめばカスのようなコストで 昆布の煮物が食え、かつ野菜の煮物やおひたしやたきこみごはんがつくれる。 耳だけに切る手間もなく、まともな昆布よりいいくらいだ。 魚も身欠きにしんやちりめんじゃこは安くて冷凍保存がきく。 特にちりめんじゃこはメシにかけて食えばうまいし、 炊きこみごはんにブチこめばうまいし、大根おろしとまぜればうまい。 キロ2000円以内で買えるので、あまりにもおいしい食い物である。 身欠きにしんはキロ1000円から1500円と魚、それも干物とは思えないほど安い。 生っぽいのは焼いても食えるし、ダシ汁で煮てもおいしい。 煮た場合は冷蔵庫で数日持つ。 生干し身欠きにしんに関しての注意は、 熱湯をかけて油を落とすことを忘れないようにすることである。 回りについている油は保存用に塗ったもので、 酸化しているので体に悪いし味も悪いからだ。

さて、これでも十分なのだが、主食がいつも麦飯では飽きるかもしれない。 そこで、パンを食う。 パンといっても市販のものではない。 市販のものは麦から胚芽やらふすまやらを取ってしまっているので 栄養が少ないからだ。だからといって、 ああいうパンを自分で作るのはメチャクチャな手間であり、設備もなかろう。 そこでただ小麦粉を練っただけのものを焼いてうすいパンにする。 ピザの生地やインドのチャパティを思いうかべればいい。 準備するのは小麦全粒粉。麦をまるごとひいてしまったものだ。 これがキロ400円で買える。 水(お湯だとこねやすい)を加え、塩と油を少々いれてこね、冷蔵庫に寝かせておく。 すぐ食いたければすぐ焼いても食える。 水は少しづつ加えるのが良い。粉によって水の吸い方が違うのだ。 粉の4分の1の体積から始めるのが良い。 そして適当な大きさにちぎってうすく広げて、 なべやらフライパンで数分焼く。オーブンでも焼けるだろう。 とにかく焼けばいい。ふくらまないので若干硬いが、腹にたまっておいしい。 何かつけるものを用意しておけばさらにいいだろうし、 生地に干しぶどうでも入れて焼けばコストこそかかるものの何もいらない。 こねたものは冷蔵庫でもつので、 ヒマな時に練っておけばいつでも焼いて食える。 保存がきかず、いちいち時間をかけて炊かねばならない メシにくらべるとそこが利点である。 また、腹のたまり具合は米と同等で、大食気味の人でも2合も食えば腹一杯になる。 ふくらまないので少なく見えるが、ナメてかかると あまりの量に嫌気がさすので注意しよう。 なお、もっと栄養を強化しようとするなら、 飯同様に何かを混ぜてこねればいい。 それにはライ麦全粒粉がいい。キロ380円と安く、 栄養が強化されて風味も変わる。

というわけで月一万円は可能だ。 たまに外食したとしても月15000円には十分収まる。 基本的に外食は味はともかく(味も悲惨なこともあるが)、 栄養面とコストで寒い。 自炊は面倒なのが最大の弱点だが、単純な料理法ならそう大変ではないし、 コストもやり方さえ考えればこのようにやすくできるのである。 そして、味は決して悪くない。むしろおいしい。 しかも、料理に熟練すればどんどんおいしくなるのだ。 その熟練も、ほとんどが加熱時間と調味料(ほとんど醤油か塩)のさじ加減であり、 特殊な技能ではない。


もどる