「ホワイトアルバム」感想(Ver.2)

私が悶えたギャルゲーはこれで4つ目です。 もちろん、へたにゲームっぽくして失敗してたり、 一撃の衝撃力が大きいキャラがいなかったりと、もろもろダメな点はあるのですが、 なんというか「こころいき」が感じられます。私もやるまでは、 「To Heart」がかなり媚びた作品に見えたこともあって、次もアイドルもの とくればもうダメだろうとおもっていました。しかし、これ、全然媚びてないです。 「雫」「ONE」に勝るとも劣らないまでにエロゲー、 あるいはギャルゲーとしての「媚び」 がありません。これにくらべれば「痕」も媚びて見えます。 もちろん媚びていなければおもしろいというわけでもありませんが、 あからさまに媚びたキャラ設定は見ていて辛いですし、不自然なエロシーンで 感動がさめることも非常に多くあります。これにはそういうことがほとんど ありません。(ただし、エロゲーであることを放棄しない程度に、ですけど)

とこうやって書くとただの変なギャルゲーなので、ちゃんと書きます。

ストーリー

まずストーリーですが、陳腐です。でも、それをもってカスとは言えません。 だいたい色恋事で陳腐でないものを書くなんて ほとんど不可能でしょう。もう何千年もやってる分野です。他のギャルゲーでも シナリオが陳腐でないものはたいてい色恋事がメインではありません。 これだけ正面から色恋事をあつかったものは私の知る限りほかにないのです。 確かに「浮気してプレイヤーの心をえぐる」という基本構想は安易ですし、陳腐です。 でも、そんなことはどうでもいいのです。

文章

とても「若い」文章だと思います。熱いです。 心理描写なども恥ずかしいくらいまっすぐに書いていると思います。 ちょっと説明っぽく聞こえる部分もありますが、やはり「熱さ」が感じられる文章は 気持ちがいいものです。また、 文字の選択や句読点の場所のような結構細かいことにも気をつかっているようで、 少くともそのへんのカス小説家よりはうまいでしょう。そこかしこにある 凝った教養的な内容も、これが一応エロゲーと分類されることを考えると なかなか粋なものに思えます。鼻につかないといえばウソになりますが。

演出

話をもりあげる最大の演出は心理描写のようです。辛い心を過剰なまでに 語って、せつなさを出そうとしています。それがうるさく感じられたなら その人はこのゲームには向かない人でしょう。確かに温度や気象などの 風景描写もつかってはいるのですが、雪のふるタイミングがちょっと クサかったりして私にはさほどの効果を与えませんでした。 また、状況を暗示する小道具を多く(金網なんか)を使うところを見ると かなり文学系の人なのではないかとも思えます。こういうのは地味に効くので 私は好きです。

しかし、それよりもなによりも私に強烈な印象をあたえたのは「選択肢」 がもはや演出になっていることです。 なにしろこのゲーム、どれも選びたくないような選択肢が ゴロゴロ出てきます。他に好きな女の子がいるかどうか、なんてのは序の口です。 エンディングへ行くことを至上命題とすれば、ほとんどの場合答はあきらかなうえに、 どちらでもいいというものが多いので楽といえば楽ですが、なにしろ ヒロイン以外とくっつこうとすれば自分は罪人同然です。 強烈な罪悪感が伴います。それゆえ、悶えながら選択肢を選ぶという 非常に楽しいゲームになっています。他のゲームならたいてい悶えるような選択肢は ハズレですからよけられますが、このゲームはそれがメインです。 存分に悶えましょう。逆に言えば、このゲームで悶えられない冷静な人は 無理です。やるべきではありません。その意味で、人を選ぶゲームです。

登場人物

あまり強烈な印象をもつ人物はいません。ギャルゲーの範囲とはいえある程度 リアル路線をめざしているようで、あまりあざとい設定のキャラはいませんし、 多様さをだすために使う特に強烈な個性の持ち主もいません。 おおまかには普通のひねりのない設定で、「女の子といえばとりあえずこう」 という感じでしょうか。 ただ、このゲームは人物の魅力を もっと細かいものの蓄積で出す方向でやっているようで、 そのコンセプトからいけばあまりマイナスではありません。 人物の特徴を少しずつ小出しにしていくタイプのすすめ方なので、 プレイヤーが勝手に人物像を想像していくタイプの人間だと なにか新しい側面を見る度におどろきがあったりして、はまりやすいでしょう。 しかし逆に言えば、最初のうちは特徴がないためまったく人物が浮きあがってこず、 そこで辛くなってしまうともうダメということもあり得ます。 おそらくギャルゲーとしては失格でしょう。

なお、このゲームの主人公はなかなか他では見られないタイプです。 非常に「弱い」のです。やたらとおびえますし、 やたらと悩みます。いざという時もなかなかうごかず、一発なぐられないと ふっきれません。「同級生」などの主人公とは対極です。もちろんエロゲーの主人公 だけにスケベーですが、浮気のときなどもある程度納得できるような 展開や心理描写を工夫しているようで、さほど邪悪さを感じません。 主人公に向かって「きさまは悪魔だ!」と 叫ぶことは他にくらべれば少ないでしょう。また、シナリオによって主人公の 人格が変わるのはギャルゲーでは珍しくもないことですが、 このゲームではそれがあまりありません。 Hシーンにさほど不自然さを感じないというのも他にはない長所だと思います。 よほど、真面目に書いているのでしょうね。

ルール

だいぶゲームっぽいものになっていますが、そのせいで展開に 水をさすことが少なくありません。例えば、だいぶ話が進んでちょっと ギクシャクしているときに通常のランダム会話イベントでまるで なにもなかったような会話 になってしまって興覚め、というようなことです。しかし、だからといって、 これを今までのようなノベルにしていたら、あまりにもシナリオに負担が かかりすぎます。複数人物の絡みのあるイベントも多く、そのへんで 多様性をだすのにはノベルはむきません。いつぞやのようにシナリオを 2人で書かれたりした日にゃあ目もあてられませんし。それにたぶん、 こういうのっぺりしたストーリーをノベル形式にすると相当たるいでしょう。 なにしろ時間をかけてプレイヤーの頭の中に人物像を描かせていくタイプですから、 相当の文章量が要求されますし。そう考えると、一週間分の予定を立ててしまうという ルールもやむをえないのかもしれません。一日一日行動をきめるにはあまりにも 期間が長いのです。ただ、もっと練ってほしかった というのが私の本音ではあります。特にシナリオに根幹に関わるところは。 はまっていれば勝手に深読みして欠点でなくてしまうこともできるレベルでは ありますが、欠点は欠点であり特にシナリオ根幹に関わるところは 治すべきだったはずです。

うまいかどうかは別にして、普通です。 ちょっと毛色がちがうアニメ絵ではありますが、気になるほど 変わってもいません。この人がロリであることは疑いようもありませんが、 ロリな絵かきなんぞめずらしくもないでしょう? と、ここまでが客観的評価で、主観的にいうと私はこの絵はダメです。 雫の瑠璃子さんにさえなれたこの私がこんな絵になれられないのは不思議ですが、 そういうこともあるのでしょう。だから、 私はほとんど絵はみてません。もう文章でいかれています。 なお、さすがに色塗りのレベルはかなりのものです。 256色で十分なのだということを納得できます。 下手にフルカラーにして重くなっているゲームが非常に多いので、 こういうところに気を使うのはいいことです。

あの歌、どうなんでしょう。あれは「それっぽい」ことが重要でそれ以上はどうでも いいのでしょうか。ひょっとしたら下手なのも世界観を表現するための 必然なのかもしれませんが。まあとにかく、BGMは特に悪いことはありません。 むしろかなり高いレベルにあるといって良いでしょう。 曲が頭にこびりつくタイプではありまんが、 シーンの雰囲気に合っているということでは相当な水準です。 ちなみにあの静かなピアノ曲が、私のお好みです。

全体として

とってもまじめなギャルゲーです。それをどう評価するかは相当わかれるでしょうが。 たぶん企画の段階ではもっと媚びたゲームになる予定だったのでしょうけど、 原田うだる氏をシナリオ担当にしたことで歯車が狂ってしまったようです。 彼の同人誌を見たことがありますが、 とても媚びたものが書けそうな人には思えませんでした。 とにかく、ギャルゲーを期待するのは間違いです。 むしろ恋愛ドラマを見る感覚で読みましょう。 ゲーム面の不備に目をつむれて、ギャルゲー的なおとぎ話を求めない人には すすめられます。


もどる