「吸血殲鬼ヴェドゴニア」感想

あの「ファントム・オブ・インフェルノ」を作った会社だけあって、 鉄砲なのだろうなと思ったらやはり鉄砲でした。 しかも今回は加えてバイクまで出てきます。 ギャルゲーを作る気がハナっから感じられない男らしさは 今回もまだまだ健在です。

ストーリー

吸血鬼に中途半端に血を吸われ、吸血鬼でも人間でもなくなってしまった 存在。ヴェドゴニアとはそういう者達を意味します。 そして、普通の高校生である主人公はいきなり吸血鬼にかまれて ヴェドゴニアと化してしまいます。 次第に大きくなる殺戮の衝動と戦いつつ、主人公は自分を噛んだ吸血鬼を 滅ぼして人間に戻るために戦わざるを得なくなるのでした。

というわけで、見事に吸血鬼のお話なのですが、実はちょっと変わった趣向が 凝らしてあります。 襲い来る怪人吸血鬼、策謀する悪の組織、そして 超常の力を手に入れてしまう主人公、さらに人間にはとても使いこなせない スーパーバイク。おわかりでしょうか。そう、仮面ライダーなのです。 話は13話で構成されており、毎回怪人との戦闘があるあたり それを意識していないとは言わせません。 さらに、各話の始まりと終わりにはそれぞれオープニング、 エンディングムービーが流れます。エンディングから続けてオープニングには行かず、 少しだけ話がはさまれるあたりもテレビ的な演出でたまりません。 よくありますよね。オープニングの前に1分くらい何かあるって奴。あれですあれ。

しかし、だからといってそのテレビくささをネタにして笑いを取ろうという だけで終わることはなく、格段の男らしさを見せてくれます。 全編とにかく「かっこよさ」を追求しており、 キャラクター達も、ちょっとしたエピソードも、登場する武器も、 そして設定までがかなりかっこいいものになっているのです。 ただ、いろんなところでいろんな作品を思い出させるあたり かなり既存の作品をあからさまな形でブレンドしすぎたのではないかと 思ったりもします。その個々の要素だけを取り出して見れば 微妙にショボい気がしますし、 仮面ライダー的なおやくそくをちりばめたことを 好きになれるかどうかも人によって違うでしょう。

ところで、やはりこの作品の売りはファントム同様高い雄度です。 乾いた暗さをいつも漂わせたこの作風はこの業界には他にないものだと思います。 苦悩にも女女しさがなく、愛にも明るさ以上に暗さが目立ち、 誰かのせいにして済ませることもできないやるせなさが残るのが良いのです。 しかし、さすがにファントムに比べると展開や設定の知的おもしろさも、 光るセリフも、圧倒的な雄度も、いまひとつ劣るかもしれません。 方向性が違うのは事実ですが、妙にエンタテインメントじみていて 期待していたような男らしさが足りていない気がするのです。

人物

全員が全員すごいわけではありませんが、光るエピソードや光るセリフのおかげで とても存在感があり、それはもう引きこまれます。 幼なじみの恋心も、同じ部活の女の子も、吸血鬼ハンターの少女も、 その相棒も、そして600年に渡って主君に仕えてきた吸血鬼も、 そんなによくしゃべるわけでもないにも関わらずハっとするようなセリフを 吐きまくりなのです。 「武骨な騎士」「活発な幼なじみ」「内気な女の子」「無口な少女」 といった典型的なキャラではありますが、それがまるで気にならないのです。 人物をちゃんと描くというのはお話に説得力をもたせるために一番大切なこと なのではないでしょうか。

ただしその一方、お約束のためだけに設けられたとしか思えない 吸血鬼の策士や、悪の組織の科学者などはあんまりなくらい典型で、 もうちょっとどうにかならかなったのかと思ったりもします。 ついでに、「殺戮の衝動」を表現しているとあるキャラもあんまりにも典型。 やはり、話をどうこうするためとか、ネタを散りばめるためとか、 そういった目的で導入したキャラというのはどんな作品でも薄くなってしまう ものなのでしょう。

キャラの絵は多少変わっていますが、それでも下手ということはありませんし、 デザインもふるっています。塗りも相当なレベルで、ファントムで多少気になった 素人くささもまるでなくなってしまいました。もう立派な売り物です。 ただ野郎キャラの顔が普通の絵すぎて若干違和感がある気がします。

しかしそれよりもなによりも、 最大のウリは3DCGでしょう。バイク、車、武器といったメカが 全て三次元コンピュータグラフィクスで描かれており、しかもそのレベルが 相当なものなのです。ミサイルは出るは装甲車は出るは、もう男の子万歳 といった感じでただただ魅入るばかり。デザインにも構図にも「やってくれたぜ」 と拍手したくなるようなものが連発して、もううれしくてたまりません。

しかもそれだけではありません。敵吸血鬼怪人(クリーチャー)のデザインも かなりかっこいいのです。こんなところに目が!こんなところに顔が! と驚けることうけあいなデザインです。 その筋では有名な人が原案を出したらしいとも聞きます。 ところで、あんな形の怪人がコートと帽子で隠れてるのはネタなんでしょうね。

そしてムービー。特にエンディングムービーの渋さには度肝を抜かれます。 なんと、改造バイクに乗った主人公がただ夜の道を走っていくだけ。 画面を暗めにしているために3DCGらしさがグンと目立たなくなって 実写くさくなり、ノイズ線やグレアといった加工によって画面の渋さが これでもかというほどに高められています。 たまりません。

仮に文句を言うとすれば、戦闘時のアニメーションが重くて いまひとつスピード感が出ないということくらいでしょうか。

効果音、音楽ともにハイレベルです。実はあまり曲は印象に残っていないのですが、 場面から浮いていたり、ショボく感じられたりしたところはまるでありませんでした。 中でもタイトル画面の渋い曲はかなりの出来だと思います。

そして、極めつけはエンディングでしょう。 先に書いた通り、改造バイクが暗闇に一条の光を投げかけながらただ走っていく そんな渋い画面に合わせて、これまた渋い曲が流れます。歌もかなりのもので、 私は知りませんがたぶんプロでしょう。

戦闘について

このゲームはノベル系でありながら、怪人との戦闘は ゲーム的にヒットポイントを減らしあうものになっています。 難易度がそう高いわけではありませんが、敵ごとに有効な戦法を 見つけないと頭を使わずに勝つというわけにはいかないでしょう。 で、実はそれはいいのです。問題は別にあります。

まず、敵との戦闘は勝つ以外に道はありません。負けて分岐することもなく、 ただのゲームオーバーなのです。とすればこれは一本道の途中にすぎず、 1回目はゲーム的おもしろさが味わえるからいいとしても、 2回目以降はただのジャマにしかすぎません。 後で述べるように2回以上やるゲームではないのでそれでもいいのですが、 やはりおもしろがるにはショボい程度のものを2回目以降も飛ばせないのは 辛いものがあります。

さらに、武器が増えません。戦闘に使える武器はたった5つで、 最初から種類が変わらないのです。仮面ライダーならやっぱり武器は増えて ほしいものではないでしょうか。

また、戦闘に限ったことではないのですが、 全般に処理が重いのがかなりのネックになっています。 リアルタイムな操作が要求されるにもかかわらず反応が悪く、 アニメーションもスピード感がなく待たされるのです。 600MHzもある機械でこれですから、 それ以下のマシンではかなりキツいのではないでしょうか。 また、行動ごとに表示される絵や文章も数が少ないので、 どうしてもダレてきます。確かに戦闘中の武器を振る絵などはかっこいいのですが、 なんぼかっこ良くても何回も見ていれば見慣れてしまうでしょう。 また、主人公が3DCGで描かれているにも関わらず、敵は普通のセル絵です。 塗りがもっと立体的で輪郭のないタイプならまだ良かったのですが、 あんまりにも普通にセル絵です。 主人公に比べるとどうしても見劣りしてしまいます。 確かに労力を考えると敵まで3Dにしろというのは無茶もいいところなのですが、 もう少し塗りをどうにかしてもらいたかった気がします。

システムとか

このゲームは分岐つきノベル系ですが、分岐の数が数えるほどしかなく、 結局4つにしか分岐しません。つまり、4回やればいいゲームだということです。 その割には先に挙げた戦闘がかなり重複しており、 事実上同じ敵と4回づつ闘うハメになります。いまひとつタルいものがあると 言わざるを得ません。

また、処理が異様に重いのも気になります。ところどころ描画がつまり、 効果音やBGMの再生も途切れます。ボタンを押した時の反応も悪く、 おせじにも操作性がいいとは言えないのです。 機能に関しては、 読み返し、文章スピード、セーブデータコメント等はそろえており 一応不足はないと思いますが、右クリックで出るメニューの扱いなどが かなり悪く、文字を消すという基本的な機能も見当たりません。 おそらくユーザインターフェイスというものをあまり良く考えていないのでしょう。 絵、音、シナリオ等がこれほど売り物としてハイレベルにあるにも関わらず そういうところで損をしているのがどうにも残念です。

全体として

かっこよくて、わくわくでき、ついでにしんみりまでできる非常にいい作品です。 仮面ライダーなところもセンスの良さのおかげで「かわいげがある楽しげな作り」 という印象しか受けずマイナスにはなりません。 科学が間違っているなんてのもネタで済まされる範囲です。

ただ、私が期待した雄度とかっこよすぎてやりすぎなセリフは それほどでもありませんでした。おそらく、前作よりも ちゃんとしたエンタテインメント になったということなのでしょう。


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