「To Heart」感想(Ver.3)

言わずと知れたヒット作です。楽しい学園ラブコメ。 その路線は見事にヒットしました。 この作品についての評価は微妙なものがあるのですが、 はっきり言って私は好きです。 Play Station版を読んでさらに好きになりました。 この感想は主にPS版の感想です。 全員のシナリオを読みおえたので、ここに改訂します。

ストーリー

高校一年も終わりになろうとする時期。 春の到来とともに出会いが訪れます。 簡単にジャンルを言えば、学園ナンパゲーです。 しかし、そのシナリオのバリエーションは他のものを寄せつけません。 それは全てムチャとも言えるほど多様なキャラ設定が根本にあるからです。 シナリオ担当が3人もいることによって、そのバリエーションはさらに増しています。 それぞれのシナリオがほとんど互いに関わってこないため、 そのことによる不利はほとんどありません。 パソコン版ではシナリオライター間の力量の差が問題になりましたが、 PS版でも依然としてそれがあります。 しかし、相当の上達があったようで、さほど気になることもないでしょう。 気になるとすれば、それは技量の差ではなく、 シナリオライターの傾向の違いでしょう。

たいがいのシナリオについては パソコン版にあった不必要なシーンのかわりにかなりの分量が追加されたため、 相当に完成度が上がりました。 もともとHシーンは不要なシナリオが多く、 これさえなければと思ったものです。 それが削られただけではさすがにボリューム不足になりますが、 大部シナリオが増えたこともあってボリューム不足は感じません。 また、青紫(青村早紀)氏の担当シナリオはパソコン版のそれとは まったく別物になっています。 パソコン版では明らかに高橋氏にくらべて見劣りし、 せっかくの優れたキャラ設定を生かしきれなかったのですが、 PS版では相当なレベルになっています。 なにより心の変化が自然に描けるようになったというのは相当な進歩です。 またとあるシナリオをあのホワイトアルバムの 原田うだる氏がかいています。 最初は設定のこともあってあまり個性は出ませんが、 突如うだる氏特有の語りがあらわれ、呆然としてしまいました。 これがもし唐突でなければその丁寧な描写が効果を上げたのでしょうが、 あまりに唐突なために笑ってしまいます。 やはり原田氏の味とToHeartはあまり合わなかったのかもしれません。 しかし、そこがなんとも面白いとも思います。

もちろん、欠点はあります。 高橋氏に関しては、たまにせりふがどうしようもなくクサくなることがあります。 お嬢様シナリオのラストなどはそこまでくどくなくてもと思わないでもありません。 また、ヒロインのラスト付近についてはHシーンなしでパソコン版と同じ ストーリーにしたために若干こじつけっぽい印象を持ちました。 考えて読めば納得できないこともありませんが、 印象としてうさんくさく感じるのはいいことではないでしょう。 むしろ説明を減らして雰囲気で流してしまうべきだったかもしれません。 また、青村氏に関しても、志保のせりふが一部説明くさく感じられます。 「果してそこまで言うだろうか」というくらい言いすぎている感があります。 これは氏の志保に対する思い入れのなせるわざかもしれません。 なお、青村氏がまともになったといいましたが、 実は志保だけです。レミィと琴音に関してはどうもやる気が感じられません。 レミィは何を表現したいのかわからないシーンが多く、 琴音は心の変化が唐突すぎます。 個々のシーンはまともなのですが、残念ながら流れがおかしいのです。 これは氏のキャラに対する思いいれを志保が独占してしまっている結果だと思います。

また、若干全体的にあざとさが増していることも指摘すべきでしょう。 即物的なHシーンがはずされた分、おいしいといわれるシチュエーションが 連発しています。主人公の性格は明らかに軽くなっており、 アニメ版のような印象をもっていると混乱するかもしれません。

しかし、全体としては変化に富み、趣向がこらされたもので完成度は高いと言えます。 典型的なナンパゲーのシナリオとはあまりにも違っているあたりが この作品の強みでしょう。

文章

文章は自然なものです。かたくるしさや格調高さとは無縁で、 親しみのもてる直接的な文章と言えます。 ラブコメ向きでしょう。 心理描写もまわりくどいことはせず、そのまま一人称で書かれています。 文体に凝ったところはひとつの例外を除いてありません。 もちろんその例外とは原田うだる氏の担当部分です。 特徴的な語りと、他のシナリオに見られないほど真摯な台詞。 ここだけ別の雰囲気をもっています。 これもまたバリエーションだといえばそうですが、 おそらくは事故、あるいはネタなのでしょう。 書いている本人以外にとっては、でしょうが。

人物

よくもまあここまでと思うほどにバリエーション豊かです。 学園ラブコメの範疇ではありません。 列挙すれば、

異常のひとことです。そして、そのくせかなり隙のない構成です。 しかもシナリオの出来不出来はともかく、みなキャラが立っており 並のギャルゲーなど敵ではありません。 ムチャな設定をみごとにシナリオのネタにしているのがまた恐しいところで、 マルチや葵、芹香はみごとにそのムチャな設定がシナリオの核になっています。 ギャルゲーというよりは、少女が主人公の物語をある男の目から見たもの といった方がいいかもしれません。主人公もこの手のものにはめずらしく ちゃんと人格ができているので、その印象はいっそう強く感じられます。

ただし、さすがにあざとさは拭い切れません。 マルチなどはあからさまでしょう。 ストーリーの所にも書いたように、 シナリオも典型的においしい場面が続くところがあります。 智子シナリオの後半などはそれだけで成り立っているといっても過言 ではないほどです。 しかし、キャラが立っていて描写に無理がないため、 それはそれとして十分に楽しむことができます。

ルール

選択肢付き小説です。 しかし、一日ごとに放課後にどこへ行くかを選択する時に、 どこに誰がいるかがわかる形式になっているため、 特定のキャラを狙うのは簡単になっています。 キャラによっては目当て以外のキャラにも会わなければならないことがあるので それだけでは攻略できませんが、 これによって大部無駄なことに時間をさかなくて 済むようになっているといえるでしょう。 別に攻略を楽しむものでもないので、この判断は正しいものとおもおわれます。

なお、PSで声がでるのにも関わらず動作は高速で、 まずストレスを感じることはありません。 相当ちゃんとしたプログラムであることが想像されます。 動作の設定項目も多く、シナリオ回想も当然のようについています。 この手のものとしては最高級のプログラムといえるでしょう。

2人の絵描きがいます。どちらも まあ、変わった絵ではありますが、そう変わったものでもありません。 パソコン版に比べると、さらに普通の絵になったとも言えるでしょう。 しかし、2人とも描きなれたのか丸みを増しており、 好みが分かれるところではないでしょうか。私の好みからいうと、 すこしつぶれすぎた気がします。 なおマルチと葵は似すぎているので、これはなんとかすべきだったと言えるでしょう。

なお、色塗りは高レベルです。PS版はパソコン版に比べて若干色が 鮮かで、ここもまた好みが分かれるところでしょう。 また、解像度が低いのに起因する画質の低さはPSでは仕方ないことだと言えます。

曲に関しては高レベルです。違和感なく雰囲気にあった曲が並んでいます。 ただし、シーンとともにこびりつくような曲はないでしょう。 また、おそらくそのような曲がある必要がある作品でもありません。 PS版は内部音源なので音質で劣りますが、 そこは音楽を売りとするリーフだけあって嘆くほどのこともありません。

なお、声については演技力に不安のある人は1〜2人で、 それもすすむにつれて上達し、かつこちらが慣れていくのでほぼ問題ありません。 それ以外はだいぶ名の知れた人が出ていますので、安心して聞けます。 ただ、イメージと合っているかどうかは保証の限りではありません。 また、非常に似かよった声の役が2つあり(マルチと葵) デザインや性格が似ていることもあってか、さらにキャラがかぶってしまっています。 格闘家とロボットという設定の差があるため どっちかわからなくなることはありませんが、 やはり声くらいはもうすこし違いをつけるべきだったかもしれません。

全体

おもしろいゲームです。 シナリオも出来はまちまちだとしても、 方針としてはキャラの魅力をできる限りひきだす方向で作られています。 プログラム的にもぬかりはなく、 不快になることもありません。 ただ、出来事、あるいは事件の連続としてのストーリーは あまり大したものではありません。 つまりストーリーそのものがおもしろいかと言われると、 陳腐で深さがないと言わざるを得ないでしょう。 あくまでキャラの描写がシナリオの目的だからです。 それまでのリーフ作品とは多少毛色が違うと考えるべきでしょう。


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