「Sense Off」感想

以前からなにやらすごいゲームだといううわさだけは耳にしていました。 そしてうわさはマジでした。すごいです。

なお、ネタバレをしないで感想を書くのが極めて困難なため、 本文はかなり意味不明になっています。 具体的な感想はネタバレ部の方に置いておきますが、 やってない方は絶対ダメです。

ストーリーとかネタとか

どうも特殊な能力があるらしいということで主人公は研究所で 生活することになります。そこで一見普通の「擬似」 学園生活を送るのです。

ネタバレを避けるとこんだけになってしまいわけがわかりませんが、 できるだけ具体的にならないようにもう少し書いてみましょう。

まず、展開がド肝を抜くほど理不尽でした。 全てのシナリオで「マジかおい」とツっこみたくなるほどです。 しかし、私の場合それは全く欠点には思えませんでした。 何か納得させられてしまうパワーがあるからです。 おそらく何かが私にとってリアルだったのでしょう。

リアルであるというのは現実に似ているという意味ですが、 現実にどの点で似ているかが重要であって、 全部が似ていないといけないということはないものです。 そういうわけで、たまたま私が問題にしているところが 似ていさえすれば、それはリアルなのだということになります。 他の面が似ていないことによって余計にその点のリアルさが 浮き上がり、強調されるということすら起こります。 この作品ではモロにそういうことが起こっており、 論理的な因果とか、キャラの表面的な 性格とか、扱っているネタ(能力とかその他)はとんでもなく現実に似ていませんが それらとは違うところでたまに恐しくリアリティが襲ってきます。 これはおそらく人を選ぶもので、たまたま私はリアリティを感じたけれども 他の人はそれもリアルに感じないということは十分にありえます。 私の場合、リアルさを感じたのはいくつかの台詞でした。 こんな奴いねーというような奴等がたまに吐くセリフ、 つまりはそれが表す彼等の態度、考え方、感じ方、さらには人間そのもののイメージ が異様なほどのリアルさをもって迫ってきたのです。

意味不明なことではONEやKANONなどもかなりのものですが、 それらは「ただショボイだけ」と強弁することができる程度の 意味不明さでした。作者に能力がないからネタがこんなで、 しかも説明が意味不明なのだと言う批評はいくらでもあります。 しかしこれの意味不明さは意図的にやっているのが ありありとわかるくらいやりすぎに問答無用なので、 「ショボイ」などと言っても仕方ありません。 読者が許される反応は「わかった気になる」か「わからん」のどちらかだけです。 私はというとこの上なく「わかった気になる」ことができました。 その意味でこのストーリーはすごかったのです。

ただし、やっぱり理不尽は理不尽で、やりすぎはやりすぎです。 説明もわざとらしくおざなりで、描写もおかしいほどそっけなく、 感性に訴えるべきところも妙に理屈くさく、 早い話絶対におかしいです。好きになれない人の方が多いのではないかと思います。 これを敢えてやってしまうあたりよほど根性の座った人が書いているのでしょう。 売るという目的から言えばどうかと思いますが、私は惚れます。

また、今までで最大の非エロ度を観測しました。 これほどエロに力が入っていない作品は見たことがありません。 これは他の感想文に多い 「エロシーンになると急にエロ目的になって本編と関係ない。ジャマだ」 という意味ではなく、 読者を欲情させようとする意思がまるで感じられないという意味です。 私にとってはとても喜ばしいことでした。

キャラ

一見普通です。無口理屈キャラ、明るい食いしんぼ関西弁、 偽長森(おせっかいおさななじみ)、偽七瀬(なにかと喧嘩女)、 そしてかわいくてちんまい内気な女の子。 そのへんの属性特徴はけっこうハデ目で、「おいおいこんな奴おらんわ」 と思う人も多いでしょう。私もそうでした。 また、「これ絶対長森だよ」とかいう思いが素直に物を見ることをかなり 妨害してくれたのも事実です。 しかし、やった後で考えてみれば そんなことはあまりにどうでもいいことでした。 どうでもいいというと誤解を招くかもしれませんが、 彼女らが誰か他のキャラに似ているだとか、 現実にこんな奴いないとかいうのがどうでもいいというのであって 彼女らの人格がどうでもいいというのではありません。 確かに何かおかしいし、人格が妙にぎこちないし、 普通の意味でリアルでないのは事実です。 一緒にいて気持ちいいかどうかも微妙ですし、 いわゆるかわいさに満ちているかどうかはもっと疑問でしょう。 しかし、何かがひっかかるのです。ハっとするのです。 それはある意味やましいことを指摘されることに似た感覚でした。

ところで、珠季(たまき)はいい奴です。絶対。

かわいい範囲ではありますが、あんまりうまくはないし、 加えて萌え絵と言われる物でもありません。この絵が好きだ、 という人はそんなにはいないでしょう。塗りもアニメ塗りで、 きれいではあるけれども新鮮味も味もありません。 私としてははっきり言ってどうでもいいという感じでした。 たまに珠季がかわいいくらいです。

ところで、立ち絵が少なすぎます。表情その他がテキストとまるで合って いないことが多すぎるのです。 これでは誰がしゃべってるのかしか表していません。 イベント絵なんてどうでもいいので、立ち絵をもっと用意する方が 大切でしょう。文章だけで伝えてしまってはこの形式であることが 生かされませんし、むしろ絵が足をひっぱることにすらなってしまいます。

曲の質は高いでしょう。辛いシーンでは辛っぽい曲がかかりますが、 そこそこいい感じです。しかし、正直ゲーム中の曲の大半は 大した印象を与えませんでした。

しかし一曲だけ猛烈に効いたのがあります。エンディング1 でかかる歌のない曲です。リズム、音色、和音、旋律全てが 私を壊していきます。あのシナリオの後だということも大きいでしょうが、 それにしたってあれは強烈です。今なら聞かずに耳コピができてしまいそうなほど 耳に焼きついています。

なお、エンディング2の歌は最もどうでもいい曲でした。 とらハ3のエンディングに妙に似ていて作曲同じ人か?とか思ってしまいましたが、 その程度です。

プログラムその他

選択肢を選ぶだけのノベルゲです。 分岐が単純で時間もかからないため、読み返しがないなどのシステムの不親切さは さして気になりませんでした。

全体として

出来がいいのかどうかという判断は下せません。 しかし、ドカンとキました。 私だから、あるいは今この時だからキただけかもしれませんが、 キたのは事実です。もし客観的な評価を下すとすれば、唯一こう言うことだけが 許されるのではないでしょうか。「これは変だ」と。


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ネタバレ部

超能力、宇宙人、謎の数学、謎の哲学。こんなオブジェクトが横行し、 いきなり理由(むしろ原因、さらには意図)もなくヒロインは死に、 死ぬ描写もロクになく、 復活する時でもロクな理屈がなく、とにかくメチャクチャです。 こういう話の展開のさせ方は普通の人はまるで慣れていないでしょう。 まさに「マジかこれ?!」でした。 ハッピーエンドっぽいラストシーンなど「これは蛇足だぞ」と全身全霊で 言っているかのようなどうでもよさで、もう惚れるしかないのです。

ところで、現実はけっこう因果で動いていますが、 それはよくよく調べてみたら実際にはそうだというだけで、 ふっと見た現実はかなり理不尽なものです。 自転車が盗まれた時になぜ他人でなく自分だったのかと考えても無駄でしょう。 また、街でバッタリ友達に出逢うことに原因も理由もありません。 自分に知りえない情報を全部統合すればそれは必然ですが、 私の持つ情報だけでそれに理由を求めたところで無駄なのです。 この作品は、現実においてたまに出逢うそういう理不尽さを わかりやすくやりすぎな形で見せてくれます。 問題は理屈もクソもなく、そういう状況に及んで人がどうするかということであって、 当事者の頭の中こそが問題なのだということなのです。

そして、もう一つリアリティを感じたのは 人間の感情とか、心の交流とか、そんなものです。 珠季に関して主人公はこんなことを思います。「うれしいから喜ぶのでなく、 うれしいとおぼしき感情が自分にあるのを見て喜ぶのだ」と。 「どうも自分はうれしいらしい。じゃあ喜ぶか」と いうひねくれた手順を踏んでいるというのです。 ストレートに感情表現をできるのは感情が豊かだからでなく、 むしろ一度理屈をはさむことによって物事を単純に 整理してしまうからなのではないかと。 さらにおかしいのは、そう思ったからといって主人公は何も 変わらないということです。 たいがいは冷たい奴とかなんとか思って引きそうなもんですが、 こいつはまるで意に介しません。 そしてもう一つあったのが 透子が主人公について語った言葉です。確かこんな感じだったと思います。 「あなたは人に話しかける時でも本当に伝わっているかどうかを気にしていない。 あなたは誰に話す時であっても、実際には自分に語りかけているだけ」と。 そして彼女は「あなたは冷たい」と言うのです。これだけならまだいいのですが、 これに対して主人公は驚きこそすれ悲しむわけでも怒るわけでもありません。 そして透子にはその言葉によって主人公を責める意図はまるでないのです。 「あなたは冷たい」と言われて「そうか」と思えてしまう主人公。 そして「あなたは冷たい」という言葉を否定的な感情なしで単なる分析として 言えてしまう透子。まさにこいつらはただものではありません。

そういうクる台詞を聞いた状態で他のキャラも見ていると、 他のキャラと主人公の交流もまたそういう何かおかしいものであることがわかります。 主人公はONEの主人公によく似た破天荒型の男の子で なにかとメチャクチャな行動をとりますが、 それが相手を楽しませようとかそういう意思によるものには見えません。 他人の存在を前提としつつも無視して自分に語りかけているような、 そんな矛盾した印象を与えます。価値観の一致とか、心の交流とか、 そんなものを前提とした関わり方を彼はハナっからしていないのです。 ただそんなことをしていても 「相手と一緒にいたい」という感情は生まれてきます。 それがどういう根拠によるのかとか 相手と心が通じているのかとかいうことはまるで無視して、 彼は彼女と一緒にいたいし、 たまたま逆に彼女は彼と一緒にいたい。 そう思った時始めて大いなる錯覚たる心の交流が生まれるのです。 宇宙人やら量子云々の話はその「大いなる錯覚」を強調するための モチーフにすぎないのでしょう。もちろん読者にハッタリをかますための演出 道具としての役割もあることとは思いますが、 非現実的でわけのわからないものをもってくることによって 表現したいイメージをよりとがらせるという役割の方が大きかったの ではないかと思います。

今考えてみれば ONEやKANON、AIRの麻枝氏もそういう互いの一方通行が生み出す 大いなる錯覚というものを表現している人に思えます。 sense offはONEに描かれたそういうものを、 ある意味ノイズとも言える「いい話」要素を 極力排除してよりとがった形で提供してくれたのでしょうか。


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