「Refrain blue」感想

元エロゲ最大手たるエルフが出したノベルゲーです。 あのエルフまでが参入してくるのですから、 時代はまさにノベルゲーなのだということを痛感させられるでしょう。 しかし、そのわりに全くといっていいほど話題にならなかったこのゲーム。 出来が悪かったのか、それとも。

コンセプト

普通ならストーリーから語るところですが、少し戦略的な見方をして 「コンセプト」というところから考えてみましょう。 作品が第一に与えるイメージのことで、 To Heartが「春、出会い」とすればこれは題名の通りまさに「青」 と言えるでしょうか。

そういうふうに見ると、この作品は「悲恋」そして「心の傷」を 「七夕」をモチーフにしつつ情緒的に語り、 その舞台として「田舎の海岸」を設定してその情緒を最大限に盛りあげる というまったくよくできたコンセプトで作られています。 売る気満々です。

ストーリー

足を故障して生きがいを失った主人公はある人里離れた海岸で一人の女性を恋をし、 しばらくの幸福な日々の後に悲しい別れを経験しました。 それから幾年かして偶然この海岸を訪れた主人公に起こる出来事がストーリーです。 「なぜ突然に別れねばならなかったのか」といった謎や、 「別れてもう会えない人との思い出をどう扱って生きるのがいいのか」、 という葛藤が全編を通してのテーマになっています。 とても渋いストーリーと言えるでしょう。 全編に流れる独特の雰囲気が最大の売りではないでしょうか。 もっとも最近この手の雰囲気系のものが多いのは事実なのですが。

ところで、この作品もストーリーが非物理です。 全編に適用できる解釈を見つけるのに非常に苦労します。 「いつ、だれが、どうして、こうなった」という形式のあらすじを求めるのは 困難で、かつ不毛でしょう。世界の雰囲気の中で登場人物の心を感じることだけに 集中した方が無難であると思います。 それというのも、ストーリー内に出来事の矛盾が山とあるからです。

このゲームは形式としては、5人のヒロインとのシナリオを順に読んだ後、 最後に別れた思い出のヒロインのシナリオを読んで終えるというものになっています。 この最初の5人のシナリオにおいて、例の彼女との思い出がぜんぜん違うのです。 違う面が描写されたのではなく、別れ方まで違っています。 主人公とヒロインの心の交流だけを真なものとして受けとり、 それをふまえて最後のシナリオを読むのがいいと思われますが、 わからないものはやっぱりわからないのです。 なにしろ思い出の人との別れ方がシナリオによって 違っているわけで、ということはシナリオによって主人公の抱えている傷がまるで 違います。いくらパラレルでもこれは困ります。 そのシナリオがどんなテーマを表現したいかに依存して設定が 変わっているようなのでわかりやすいにはわかりやすいのですが、 そういう手法がいいのかどうかは少し疑問でしょう。 「再会できないとわかっているのに再会の約束をして別れるのは、 一時のなぐさめにはなってもかえって残酷である」というテーマをもつシナリオでは 主人公はそういう別れを体験しており、 「過去の恋人との思い出をひきずっていては未来に進めない」というテーマ のシナリオでは死に別れています。死に別れるにしても、後から知るパターンや 死の瞬間まで見届けるパターンまであり、テーマを表現するのには必要だとしても ちとやりすぎです。

また、ヒロインは5人いるわけですが、最後のシナリオを読む前に語られておくべき テーマを含んでいるのは厳しく言えば2つです。 他も確かに関係しているしあった方がいいにはいいのですが、 さほどの深さがありません。 にもかかわらず5つ読まねば先を読めないのは かったるいと言えばかったるいでしょう。 シナリオそのものの出来もさほどよくないので、 オプショナルにすべきだったのではないか、と思ってしまいます。

ところで、最後の手紙がやりすぎだと思うのは私だけでしょうか。

文章

自然体。ごてごてといらない修飾や描写を重ねないすっきりとした文章が 魅力です。以上。

人物

5人の連中は普通なのでいいです。 確かにかわいいですが、まあかわいいだけでしょうか。 はっきり言ってシナリオに食われています。

が、思い出のお姉さんだけは別格です。 5人のものとは逆にシナリオが少しやりすぎで興を削ぐようなものにも関わらず、 彼女の魅力は相当強烈なものがあります。 さぞ「うおー、甘えてー。甘えてーぞー」と叫びながらゴロゴロ床を転がる人が 出たことでしょう。ほとんど回想シーンでしか出てこない彼女ですが、 かなり強烈な印象を残してくれます。ただ例によってシナリオ的に 佳境に入ってくるとクサいことを言いすぎるので、 やっぱり興が削がれはするのですが。

システム・プログラム・技術的演出

よく動きます。アニメーションです。 タイトル画面からして動きます。 花火なんかもいちいち3Dアニメします。 しかし、画質が悪いのです。 加えて3Dは雰囲気に合っていない上にショボいのです。 というわけで、無理して動かさなくてもよかったような気がします。 動かすなら他の絵と調和のとれたものをもっと控え目に動かした方が よかったでしょう。

しかし、その他の要素は非常に完成度が高いです。 読み返しも完備されており、タイトル画面のレイアウトやらも凝っています。 文字もアンチエイリアスがかかっていてきれいですし、 エフェクトも多様です。必要な機能はほぼあるので不満はないでしょう。 ただ、凝っているだけに遅いです。スキップしててもけっこう読めます。

少女漫画あがりの絵ですが、気になりません。 塗りがきれいだからでしょうか。背景もなにもかも十分にきれいで、 かつ雰囲気が出ています。たまに写真になったりもしますが、 それもさほどの違和感はなく気になりません。

ところで、この人の絵ってこんなにエロかったでしょうか。 下級生の時はダメだと思ったものですが。

曲はいいですが、実はない方がよりいいのではないかという気もします。 最初やった時はトラブルで曲がならなかったのですが、効果音だけは鳴っていました。 おかげでBGMは波の音とセミの声という異常に風情のある状態だったのです。 最初にやったシナリオの出来がよかったからかもしれませんが、 その時が一番雰囲気にひたれました。

なお、声はかなりのレベルです。若干方言がおかしい気がしたり、 とあるキャラのしゃべり方がうるさすぎたり、スローなしゃべりにも限度があるだろう と思ったりすることもありましたが、 下手くそで困るということはありませんでした。

全体として

全体にいろいろと欠点が目につきますが、 考えることなく勢いで通して読んでしまうとかなり感動できるのではないでしょうか。 美しくて悲しい話が好きな人にはおすすめでしょう。

なお、なぜ話題にならないかですが、たぶんノベルゲー崇拝者はエルフというだけ で期待しておらず読んでいないし、エルフファンはこの地味さにがっかり というところではないでしょうか。

ともかくも、良くできています。

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