ギャルゲーに非ず。エロシーンはありますが、エロゲーに非ず。 女率の高いハードボイルドと言ったらいいでしょうか。 おもしろかったです。ただ単純におもしろかったです。
記憶を消され、暗殺者として生きなければならなくなった少年と少女のお話です。 インフェルノという犯罪組織の暗殺者として 最高の殺し屋の称号を欲しいままにした彼等は、 インフェルノの存亡にも関わる重要人物となっていきます。 マフィア、銃器戦闘、カーチェイス等のハードボイルド的オブジェクトを核に しつつも、丁寧な心理描写によって人物像を積極的に描いていくという コンセプトで、よく言われるハードボイルド小説ほど問答無用な雰囲気は なくとっつきやすいと言えるでしょう。しかしもちろん銃や車のウンチクは 盛りだくさんですし、腹に一物もった人物同士の会話はスリリングの一言につきます。 そして、そんな打算で生きている彼等がポロリと出す人間的な弱さがまた たまらなくいいのです。
もちろん、ケチをつけようとすればいくらでもつけられます。 出てくるモチーフがステレオタイプっぽいとか、 何かと都合が良すぎるとか、偶然にしては出来すぎだとか、 それはもういくらでも挙げられるでしょう。 しかし、私には見えません。反論の余地もなくそうなのですが、 見なければ勝ちです。
ところで、こういった非日常を体験したキャラは普通の日常には戻れないという 描き方がされるのが常です。「人を殺した者は、殺していない者とは違う世界にいる」 というのはよく聞く話でしょう。 確かにこの作品でも大方はそういう描き方をされます。 しかし、私にはそれで終わらせてしまわず、どうにか同じ世界を共有できないかと 悩み努力する様が見えます。「おまえに何がわかる」という台詞はもっともで、 所詮わからないのだということはしっかりと知っておかねば ならないことではありますが、 それでもなお「わかろう」とするその心意気には希望と感動を覚えます。
説明するのは面倒です。 行動も、セリフも、何もかもが不自然なほどかっこよくてシビれます。 なお、いわゆる萌えなものは期待しないように。ただ、無条件で無口少女萌えな人は 萌えられるかもしれません。
ところで、暗殺者になって一年で 主人公がシブくなりすぎている気がするのは気のせいでしょうか。 それくらい苛酷な日々だったと思えばそれで納得できる程度の問題ですけれども。
普通に選択肢付き小説ですが、展開が多様で無理がなく、 選択肢を選んだ結果もそこそこ納得できるものになっています。 十分及第点でしょう。途中で携帯する銃を選ぶことがありますが、 これもゲームの進行には影響は出ず、戦いの描写が変わるだけです。 趣味まるだしで選ぶことができるわけで、その道の人にはたまらないでしょう。 クイックタイムをインストールしていれば銃がクルクル回る のが見られたりして、演出的にもなかなかおもしろいものがあります。 メニュー画面でも関係ないところをクリックすると銃声とともに クリックした所に穴があいたりして、もう凝りすぎという感じです。 マクロメディアで作っている割にはちゃんとしているのが好感がもてます。 自社で作っている方がいいとは必ずしも言えないのが今のギャルゲー業界なので、 これはこれでアリでしょう。
ただし、絵が全部jpgで置いてあったりして多少興ざめではあります。 できることならば自前でプログラムを組んでほしいものです。
ところで、銃器観賞モードが独立して作られています。 作中に出てきた銃を説明付きで見ることができるというスグれものですが、 この作品のスタンスを雄弁に物語っているいい例です。
人物以外は申し分ありません。背景は3Dか写真で雰囲気に合っていますし、 3Dで描かれた銃器のリアルさは相当な執念のたまものでしょう。 メニュー画面やセーブ、ロード画面なども凝りに凝った作りで いかんなくそのこだわりを表現しています。
が、人物は少々浮いているかもしれません。普通にかわいい絵なのです。 塗りもあまりきれいでなく、作品の雰囲気とはどうも食い違っています。 ギャルゲーとして売ろうという戦略なのか、そういう絵の人しか いなかったのかは謎ですが、できたらもう少しシブイ絵がほしかったと思います。 ついでに、主人公が昔ながらの前髪が長くて目が見えないタイプなのには 少々ガッカリしました。
かっこいいです。それ以上何を言えばいいのかわからないくらいかっこいいです。 普通に明るい曲も若干ありますが、多くの場面では微妙に陰のある曲が ゆったりと流れ、雰囲気を見事にもりあげています。
おもしろいゲームでした。ワクワクしました。 ハラハラしました。シミジミしました。そして何よりもシビレました。 根っからのハードボイルドファンにとっては生易しいところがあるかもしれま せんが、「ハードボイルドっぽさ」に新鮮味を感じる私などにとっては えらく斬新なものに見えたのです。