「ONE〜輝く季節へ」感想(Ver.2)

悶えます。これは悶えます。ただ、悶えかたが変です。 ふつう、ギャルゲーの女の子に対して抱かせたい感情というものは 主に「かわいい」です。しかし、このゲームでは 「かわいそうだからなんとかしなくちゃ」になっています。 まったく本人達にギャルゲーを作っている自覚があるのかどうか すら疑わしい作品です。よって、媚びて感じられるところは ほとんどありません。とりあえず、個々の要素を見ていきましょう。

ストーリー

難しいストーリーです。 テーマは「日常」であり、過去の主人公の心が日常を拒んだ結果、 現在の彼は日常を去らねばなりません。これは 「消えて、誰も主人公を覚えていない」 という形で表現されます。そしてすべてのシナリオの最後で一度は消えていきます。 ヒロインだけが主人公を覚えていて待つことになるのです。 そういった世界観を語るために最初からバシバシ伏線をいれてきており、 ささいなこと、たとえば一人称がオレであるかボクであるか、 とか一見意味もなく出てくる「ころころ」という音とかに注目できなくては ストーリーの解釈はむつかしいでしょう。 とにかくストーリーを楽しもうとするのなら読解力が必要になります。 ただ、 表面的な部分においてそういった謎なストーリーはキャラクターの 心理を語る上での味つけにすぎないという見かたもできるため、 ヒロインや主人公に感情移入できさえすれば そう気にしなくてもゲームを楽しむことはできます。

期間は11月末から3月にかけてですが、毎日なにかおこるのはせいぜい クリスマスまでで、それからは怒涛のようにシリアスシーンが連発しつつ 終末へとなだれこみます。キャラによっては圧倒されるような勢いです。 ただ、前半の幸せな日々が長すぎる一方 ストーリーが展開する後半が説明不足と思えるほど短いという印象があります。

あまりに無茶で感情移入できないところが ひとつだけあります。ヒロインのシナリオです。 たった一日のあるできごとさえなければ 私の内部ではまさに完璧なゲームとして不滅の評価を得たでしょうに。 まったく惜しいものです。

まあ、基本的には学校を舞台としたラブコメです。 別に難しく考えることもありません。 実際途中までは完全にギャグですから。 ただ、2回目以降読む時にはギャグに隠れた伏線を感じながら 読むとより楽しめると思います。

文章

若い文章です。はずかしい表現がそこかしこにでてきます。 特にオープニングのくだりはものすごいはずかしさです。 しかし、話そのものがはずかしいのでそう気にはなりません。 基本的に詩人系の人のようですが、どういうわけか ギャグがものすごく面白いです。並の感性でこんなギャグはかけません。 それで詩的な部分もかっこいいので、なかなかすごい人だと思います。 そして、なによりこの人がすごいのが、ちょっとした日常のできごとをかく うまさです。これの積み重なりがラスト付近での 破局をより辛く感じさせる力になっています。

演出

突然シリアスで意味不明な(やってるうちになんとなくわかってくるが)シーンに 移行し、いきなりものすごい詩的な台詞が連発します。 そうして次の日になるとまたギャグギャグした日常が帰ってくるのです。 しかし、時間がたつにつれその頻度が高くなっていき、 ついにはたまに出るギャグもなにか悲痛なものに感じられるようになります。 (つまらないわけじゃなくて) とにかく、このゲームにおける演出はそのリズムにあるとも言えるでしょう。 また、キャラにもよりますが雨や気温、夕焼けなどの小道具を効果的に用いて、 非常に印象にのこるシーンを多く生み出しています。 これだけそういったことを大切に書く人は この道ではすくないのではないでしょうか。 なお、Hシーン関係の演出については何もいわないことにしましょう。 下手にエロゲであることを意識した結果、 いらないことをしてしまったという感じです。

登場人物

ある意味 非常に個性豊かです。ふつう、ギャルゲーでの個性といえば「属性」と表裏一体にな っているものですが、 これはもっと細かいところでの個性といえるのではないでしょうか。 ちょっとした台詞やちょっとした行動で、何を考えているかや何を思っているかが ものすごくあらわれてきます。 もちろん属性的なキャラ作りを全くしていないわけではなく、 おさななじみや、おしとやか、ロリ等の属性はあり それ自体はオーソドックスで陳腐ですが ここで言いたいのはそれに甘えることなくキャラクターを作っているということです。 ただし、ギャルゲーキャラとしての完成度は低いといわざるをえません。 なぜなら、前にも書きましたがプレイヤーがこのキャラクター達に抱く感情が 「かわいそうだからなんとかしなきゃ」であることが多いのです。 だいたい、設定からして「恋人」にしたくなるような女の子としては作られて いません。非常に失礼ではありますが、そういう目的でキャラクターをつくるときに だれが「盲目」や「聾唖者(しゃべれない人)」という設定をつけるでしょうか。 さらには「登校拒否の少女」まででてきます。しかも、明確には述べられては いませんが、どうも知恵おくれ、あるいは幼児退行気味です。

また、そういった無茶な設定でない普通のキャラでさえ、 せっかく「おしとやか」で「料理好き」にもかかわらず 「味覚が変」とか「あまり成績はよくない」なんて設定がついて ふつうじゃなくなっていますし、 一番ふつうであるはずのヒロインも天然ボケのレベルはあんまりです。 約一名だけ比較的まともなのがいますが、それも「乙女にあこがれる」 という変な設定がかなり極端でやっぱり変です。

なお、一番イカれているキャラが主人公であることは疑いようもありません。 なにしろこいつの言動や行動はド肝をぬくものばかりです。 ふつうなら「こんなやついねえよ」のひとことで片づくのですが、 私の場合幸か不幸かこいつによく似た人物を知っています。 それだけに「ただのキャラ」ですませられません。 もしこのゲームをやることがあったら こんな人間が現実にいるんだと思って戦慄してください。

ルール

この手のギャルゲーとしてはオーソドックスな選択肢つき小説です。 しかも、分岐はそう複雑ではなく、ストーリーのパターンそのものは キャラの数しかありません。ただ、このゲームで特徴的なのは、 進行に影響しない選択肢が山ほどあることです。どの選択肢がそうであるかを 知ってさえいれば、純粋に好みでえらんで楽しむことができます。 逆に知らないと、どこで間違ったためにエンディングまで行かなかったのかが わからず、非常に難易度が高くなる原因になります。 ですから、攻略を見てやるのはこのゲームに関してはまったく問題ありません。 どんどんダミーの選択肢で変なものをえらんで楽しみましょう。 なお、選択肢が多いために文章量も相当な量になっています。どこにイカれたギャグが あるかわからないので、いろいろ選んでみるのもいいでしょう。 さらに、場合によってはあるキャラの攻略に失敗した時だけに見られる そのキャラの以外な側面もあります。失敗したからといってやりなおさず、 いろいろな文章を探してみるのもまた一興です。

ダメです。これで終わらせるのはあんまりなのでもうすこし書きますが、 デッサン、表現力(表情とか)、キャラの特徴付け(描き分け)、 すべてで最悪のレベルといわざるを得ません。単体で絵が置いてあれば 「かわいい絵」ですまされる程度ではあるのですが、動かそうとするともうダメです。 明らかに描きたいものしか描いてこなかった典型的な人なのでしょう。 もっとも文章でイカれていればそれを通して自分好みの別のものを 見ることができるようになるのでさほどの問題ではなくなってはくるのですが。

なお、色塗りのレベルは前作からだいぶ進歩し、ほぼ標準的なレベルになっています。

かなりいい感じです。特に雨のふっているときにかかる静かな曲は 最高に雰囲気を出してくれています。奇をてらったものではなく、 悪くいえばどこかで聞いたような曲なのですが こういうものは合っているかどうかが最大の問題ですから そんなことはかまいません。しかし、ただCDとして聞いても 観賞に耐えると私は思います。

全体として

文句をつけるところは山ほどありますが、 私にとってはほぼ完璧な出来に感じられます。 ただし、絵を気にするタイプの人にとっては 毛ほどの価値ももたないでしょう。また、エロゲーとして、 あるいはギャルゲーとしてはまったく落第です。 ですから、小説を読む感覚で読める人におすすめです。 ただし、それでもひとつ問題があって、ストーリーがはっきりしないタイプのものが 嫌いな人には辛いと思います。 そういうのに耐えられるロマンティストや、 キャラの心理描写やシーンの美しさだけでイカれられる人にとっては たまらない作品だと思います。


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