「街」感想(サターン)

文章系ではありますが小説系でないものです。ハイパーテキストによって 複雑にからみあったシナリオはもはや古くからの小説という分野をとびだしたとも 言えるでしょう。そして、完成度の高さもまたすばらしいものです。

ルールあるいはシステム

文章に選択肢をつけ、さらにリンクをはったものです。ふつうに読みすすめていると 必ず「つづく」でおわり、そのままではその先を読めないようになっています。 その先を読むためには、別のシナリオからのリンクをみつける必要があり、 すべてのシナリオを平行して読まねばならないようになっています。 この「つづく」が実にいい場所にあり、週間漫画誌の最終ページを思わせる感じです。 「次どうなるんだろう」というその気持ちが、他のシナリオをよんでリンクをさがす作業を する動機になります。 また、そのままでは途中でエンディング(バッドエンド)になってしまう地点が多くあり、 これには他のシナリオでの選択が関係しています。つまりは 「だれかがドアをしめておいた」ために「他のだれかが入れない」というようなことです。 この2つが主なルールで、作業としてプレイヤーに必要とされるのは 「リンクをさがすこと」と「どの選択がどのバッドエンドをひきおこすかをつきとめて それを防ぐ」ことの2つになります。前者は記憶の問題(そ こにマークをつけておくことはできる)ですから、後者がこのゲームでのルール的な おもしろさの主役になるわけです。それこそ理不尽なまでに関係なさそうなことが原因で バッドエンドになることも多くあり、原因がみつかった時の驚きは相当なものです。 この驚きが文章そのものの面白さを強化する最大の要素になっています。

また、わかりにくいと思われる単語や、ちょっとした注をくわえたい単語には リンクがはってあり、その先には短い解説がついています。これがまた場面を反映した おもしろい文章になっており、これがある時はすべて読むのが常道でしょう。 シナリオの雰囲気によってこの解説の文章の味も変わり、これもまた雰囲気を出すのに 一役買っています。

とにかく圧倒的な文章量をあきさせずに読ませるのに、これらのルールは大きな役割を しており、単純ながらこのルールがすぐれていることを証明してもいます。 概念としてはハイパーテキストそのもので、そう奇抜なものではないのですが、 それをゲームに持ちこんだことと、それを使うことによって最大限の効果を上げるような シナリオを書いたことは非常に評価できると思います。また、膨大なリンクに見あうだけの 文章を書いたこと自体がすでに脅威でもあります。

また、難易度についてよくいわれるようですが、決してむつかしいということは ないはずです。おもしろいと思って読んでいればちゃんとリンクもトラップ (バッドエンド条件)もみつかるようにつくられています。頭を使うことが嫌なのなら 仕方ありませんが、そうでなければ十分とけるレベルです。

なお、データ転送にはそこそこの時間がかかりますが、これは仕方ないことです。 それに関してはゲーム機の宿命だと思う他ありません。

ストーリー

ある8人の5日間をえがいたストーリーです。爆弾事件の解決に奔走する刑事の話から、 恋人にフられないために5日で17キロの限量を余儀なくされる女の話まで実に多様で、 何の関係もない8人の行動が微妙に他の人に影響を与えているところがおもしろいと いえるでしょう。

また、その雰囲気もさまざまで、哲学っぽい味の文章からあからさまにコミカルな ものまであり、それを交互に読んでいくためにあきがこないものになっています。 それをむすぶつけるのに重要な役割をあたしているのがワキ役で、 ほとんどは複数のシナリオに登場してきます。そうしてシナリオ間の関係を 深くして、一体感をだしているのです。

ただし、それぞれを読み物として見た時にはそうすごいものではないとも言えるかも しれません。この形式上、あまり読者を感情移入させるタイプのシナリオにすると、 途中で中断してしまうことが致命的な弱点になります。 プレイヤーはストーリーからすればあくまで観客であり、それを読む順番をきめられるだけ なのだと考えるのが妥当でしょう。したがって、得られるおもしろさの種類としては 「くぅ泣けるぜ」とか「ああ、XX(キャラ名)ィィ!」というのではなく、 「うおっ、こうきたか」 とか「ここでこんな展開ですかぁ」と驚くのが主体になります。 シナリオは基本的に荒唐無稽でムチャなものばかりで、まったくリアルとはほど遠いものが そろっています。喜劇っぽいものが多いともいえるかもしれません。 重そうなシナリオでも、本当に重いのではなく、雰囲気が重そうなだけであって、 やはり基本は軽いタッチで描かれています。ですからこれに関しては、あくまで 娯楽であるという前提のもとに評価しなければならないでしょう。

文章

うまいでしょう。書きすぎず、説明不足にもならず。くどくなりそうなところはリンク の先において、本文がくどくならないように気をつかっています。表現も シナリオの雰囲気にあわせてそれっぽく変え、娯楽としては申し分ないものに なっています。とにかく、「楽しませる文章」として一級品です。 ただ、それ単体で読み物とした時にはさほどのものではないかもしれません。 しかし、ここで重要なのはゲーム全体としての完成度ですから、 下手に文章に凝りすぎるのはかえて問題になります。そのへんのことをわかっている というのはとても偉大だと思います。

登場人物

キャラクターは非常に立っています。こまかい小道具でキャラを立てる技法にすぐれた人 で、必ずなにかクセや好物などを持っていて印象にのこります。 一番それが出ているのはゲーマー刑事の「コーヒー牛乳」でしょう。 「けふも元気だコーヒー牛乳がうまい」などという台詞は特に名ゼリフであるといえます。

ただ、設定は極めてコミカルです。上の例をみればわかるようにこんな人は多分いません。 ストーリー的にもこんなことおきないよというものなので違和感はありませんが、 これを「ふざけた」と感じてしまうとつらいかもしれません。

また、俳優の演技もこれに一役買っています。なかなかハマった表情をしていたりすると、 やっぱりうれしくなるものです。なお、「美人」の定義についてはさまざまでしょうが、 さほど違和感なくそうかと思えるくらいの人が出ているのではないか、と私は思います。

音楽

おそらく並でしょう。ただ、私の「並」はけっこうレベルが高いはずで、 「よく場面にあっていてジャマにならない」という条件を満たしていることを意味します。 耳にこびりつくような曲や、効いただけでシーンが受かぶような曲はあまりなかった気は しますが、そこまではもとめません。むしろそういう曲があることがいいとは 限らないのです。

総合

楽しいゲームです。文章だけでなく、ルールや映像も重要な役割をはたしています。 この形式はおそらくマネされるでしょう。膨大な労力がかかるでしょうが。 しかしながら、1年後にこのゲームの印象は記憶にあったとしても、シナリオの 印象は残っていないような気がします。それはこれに関してはマイナスでは ないのですが、やはりこの形式によって、文章への依存度はさがったのではないかとも 考えられはしないでしょうか。それもあって、このゲームは小説系ではないと おもうのです。


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