「久遠の絆」(プレイステーション)総評

輪廻転生オカルト伝奇ロマンです。よくある選択肢つき小説で、 特に目新しいところはありません。で、一体なぜこれをやることになったかというと、 「痕」に似ていて、「痕」よりもおもしろいというウワサを聞いたからです。 結局それは私にとってはデマだったのですが…。さて、けなします。

ストーリー

転生超能力恋愛神話ものです。パッケージには

「主人公の通う高校に謎の美少女「万葉」が転校してきた。 それを機に次々と置こる不可思議な事件、そして蘇る千年前の記憶。 彼らは時と場所を超えて再び巡り会う。 それは過去から現在へと続く悲しい恋物語の再演なのか…」

とあります。これだけ見れば陳腐ですが、これのすごいのは転生が3回も行われ いちいち死に別れるのをくり返すところです。平安、元禄、幕末、現代と 時代があり、平安にはじまった事件を3回の転生を経て、現代でカタをつけるという 構成そのものはいいのですが、いかんせん長すぎます。はっきり言って、構成上元禄と幕末は いりません。登場人物の数が膨大になり、それぞれの生き様を描写している と肝心の主人公とヒロインへの感情移入が薄れてきます。また、「泣け」という 言っているようなシーンが転生の度に起こるうえにワンパターンなので、 (結局自己犠牲。これは一度きりの最終兵器だと思う。) だんだん慣れてきて感動しなくなります。

分岐の作り方に関してもいろいろと欠点が見られます。 最終的には3つのエンディングにつながるのですが、 その分岐時期が遅く、かつ分岐後も けっこう文章が重なっているため、どうしても飽きてきます。 ひとつの事件を様々な角度から見たり、 行動によって事件を大きく変化させるために分岐をつくるのが普通だと思うのですが、 残念ながら成功しているとは言えません。まあ、過去の話はいわば回想シーン ですから、分岐が起こって現代が変化するようでは矛盾が生じやすいので 仕方ないとも言えますが、過去編でも選択ミスでゲームオーバー(主人公死亡) になることを考えるとそれはいいわけにすぎません。(回想シーンに入るまでの 現代編の存在そのものがその過去のできごとによって否定されるでしょ。それじゃ。) さらに、ちょっとした分岐の結果おこらなかったイベント について後になって言及されたりして、 (おこってもいないのに、あの時はどうのこうのと言う) 練り込みの足りないところもちょくちょく見られます。 かぐや姫に題材を取ったところや、陰陽道と神道を話の根においたところ などは好感がもてるのですが。

文章

私の判断では下手です。やたらと「〜だった。」を多用し、 いりもしないのに「〜ッ」をJOJOのようにつけ、さらにはせっかくの緊迫した 場面で平気で「ハートマーク」を使います。(ハートの出し方がわからない) 最後の戦いで「パパ(ハートマーク」はないでしょう。それまでの感動 (といってもたいしたことはないが。)が一撃で粉砕されます。

そして、無駄に描写が長い。もういいよ、というくらいしつこく書きます。 しかも陳腐な表現で恥ずかしい文章です。 おそらく書いている方は酔っているのでしょうが読む方は かえって覚めてしまいます。 ところが一方必要な描写がスッポリ欠けています。 たとえば主人公が敵にボコボコにされるシーンが あるのですが、犬の化物にそこらじゅうの 肉を食いちぎられたにもかかわらず10日後には 全快しています。あまつさえ「日頃の鍛練の甲斐もあって治りが速い」 などとぬかすのです。 そんなんでいいんですか? せめて「異常な速さで傷が治ること」に対して一言くらいフォローがいるでしょう。 また、剣を自分の体から出すというこの手のものではよくあるシーンがあるのですが、 これも説明不足です。刀で腹をかっさばいて、そこに手をつっこんで剣 (刃渡り60cm以上)をひきずり出すのですが、かっさばくことに関して 一切の躊躇が見られないばかりか苦痛を感じたような描写もありません。 うめき声ひとつないのです。 せめて表情の描写くらいほしいでしょう。さらにそのうえ、その剣を出したあと 平気でピンピンしています。痛みに関する描写は全くありません。 その傷は一体どうしたのでしょう。ちなみに次に会った時にはもう治っていました。 これはせめて「ウテナ」みたいに傷なしで出すとか、傷が高速で治ることにするとか、 いっそそこで殺してしまうとかしないと説明できないでしょう。 ちなみにこのキャラは設定としては人間ではありませんが、普通に (衝撃を発する術を食らって)死にます。

ただ、数人で書いているらしく、場所によっては結構かっこいい文章に なっていたりもします。幕末編は比較的文章がまともに思えます。 一番ひどいのは「美少女ヒロイン」シナリオの最後の方です。 ハートマークが連発します。「誤誤誤誤誤…」は笑いました。ふう。

演出

くどくて恥ずかしくて陳腐な文章。これにつきます。 なお、どう考えてもHシーンを入れる予定としか思えない個所が数箇所あります。 「首筋をなめる」なんて描写プレステでいいんですか?

登場人物

典型です。「おにいちゃん」キャラに「おねえさま」キャラに「一見冷たい美少女」 キャラ。メインではありませんが「キャピキャピガキンチョ」キャラも 登場します。おそらく、 一番キャラが立っているのはおそらく主人公のライバルでしょう。 最初はただのバカなのが 転生するごとになんとなくまともになっているような気がするのが素敵です。 他の奴は…どうでもいいです。特に悪の親玉がショボかったのは残念ですね。

ルール(システム)

選択肢について

選択肢は一つ選んだだけで分岐が決定するわけではないらしく、 どこをどう選べばいいのかが結構むつかしくなっています。 また、無意味な選択肢が多く見られます。「3人のうちだれが襲ってくるか」 などというヒントもなにもないのにランダムな質問が何回もでて、 しかも何回か失敗するとゲームオーバーになります。 そんなにエンディングに行かせたくないのでしょうか。そういったテンポを 破壊するような悪意に満ちた選択肢は私の最も嫌うところです。 やはり選択肢は「気分で選ぶもの」と「理性で考えて正しいものを選ぶもの」 の2種類であり、後者には絶対にヒントが必要です。ただ3分の1などというのは 何の意味も持ちません。

法術戦闘

たまに法術で闘うときに「一定時間内に星を書いて敵に飛ばす」 という変な操作がでてきます。もちろんこの星は「晴明桔梗印」をあらわ していて、根拠がないわけではないのですが、どう考えてもこの操作は面倒で 邪魔です。しくじってゲームオーバーにでもされた日にゃあ叫びたくなります。 おそらくただ選択肢をえらんでいるだけではゲームくさくないと思って無理に つけたのでしょう。全く邪魔です。

快適さに関わる部分

まず処理がヘビー級に重いです。この系統のゲームの中でもトップクラスの重さ なので、よほどプログラムがひどいのではないでしょうか。 だいたい、声まで出るようなゲームでもこれより速いのが普通です。 まず人物の絵を描きかえるのに2秒かかります。 場面の転換は3〜4秒です。これはかなりテンポをそこないます。おそらく 全プレイ時間の3割くらいはCDからのロードや描き換えなどの待ち時間でしょう。 そしてきわめつけがセーブとロードです。メモリーカードのチェックに4秒以上。 セーブやロードにも4秒以上かかります。しかも、前に述べたように無茶な選択肢が 多いためセーブやロードは頻繁に必要です。そのためこれも嫌になる大きな要因に なります。 さらにセーブ領域が3つしかないのも辛さに拍車をかけています。 せめてメモリ中に仮保存するようなことも合わせて行えればもっと楽でしょう。 多くのゲームでそういったメモリ内での一時保存ができないのは 何か原因があるのでしょうか。あのメモリーカードの遅さから考えて ほとんどのゲームでは必須だと思うのですが。 私が知っている限りそれができるのは「サガ・フロンティア」ただ一つです。 なんにせよ、プレステはこういうゲームには向きません。 性能を考えてもっと軽くすべきです。 かっこよくしようとして凝るとこういうことになるのです。

また、文章スキップの機能も貧弱です。いちいちメニューを呼び出して、 「メッセージスキップ」を選択するのは相当な手間です。なぜそれを行う ボタンを設定しなかったのでしょうか。こんなゲームではボタンがあまっている のですから、「次の選択肢まで飛ばすボタン」とか 「押している間ウェイトを0にするボタン」とかを設定するのは当然のことでしょう。 また、効果音の有無や、字の出る速さ、画像の描画速度の設定がないのは 極めて不親切です。たいていのパソゲーが持っていることをなぜゲーム機では できないのでしょうか。まったくテストプレイをしているのかどうか 疑わしいと言わざるを得ません。さらに「文章を何%見たか」とかの表示があると 便利です。そういうことは積極的に真似してもらいたいものです。 こういうことは「パクらないこと」こそ悪といえるでしょう。

普通です。下手ではありません。変でもありません。それだけに印象に残りません。 また、せっかく綺麗に描いても、プレステの低解像度ではまったく無駄です。 とことんギャルゲーはゲーム機には向いていないのだと思い知りました。

また、やけに絵の枚数が少ないのも気になります。やたらと立ちポーズ絵を 使い回すので「このセリフでこの表情か?」とか「この状況でこのポーズか?」 というようなことが頻繁に起こります。さらには戦闘中で服が破れた絵が表示され た後、普通のシーンの絵を使い回して使ったために服がなおってしまうことすら おこります。描き換えるたびに破れたりなおったりするのです。 そりゃあ、まずいでしょ?いくらなんでも。 容量はいくらでもあるはずなのですがねえ…。

あと、どうでもいいことですが、「やっぱり日本髮にアニメ絵は合わないな」 とつくづく思いました。仕方ないけど。

悪くないですが、頭にこびりつくほどいい曲もなかったように思います。 ま、そこそこでしょう。

全体として

最大の欠点は長いことです。 18時間は長すぎます。一回が5時間くらいで早い時期から分岐するのであれば、 5回や6回はやる気になるものなのです。 そして、ただでも長いのがひどいプログラムによってさらに長くなっています。 文章は下手ですが、内容そのものは並でしょう。 散々けなしましたが、カスというわけではありません。ちゃんと基本は押さえて います。ただ、なによりも処理が遅くて長かったためにやっている人が覚めて ケチをつけやすい状態になってしまうのです。処理が速くて、もう少し みじかかったならなんとか終わるまで酔っていられたでしょう。


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