「痕」感想(Ver.1)

選択肢付き小説タイプのゲームとしては極めて完成度が高い部類に入ります。 私の中で特別扱いされているゲームのひとつです。

このゲームをやったのは随分前の話でえらくはまったものです。 もちろん全部のエンディングを見ました。 今回ひさしぶりにやってみたところ、あまりのすごさに文章をかかずには いられません。しかしながらはやる気持ちのせいで、全エンディングを迎えるの を待てず、このように途中ながら文章を書くことにしました。

そのせいで今明確に記憶にあるシナリオは一部分にすぎませんので、 この文章は暫定版だと思ってください。

ストーリー

主人公の血統がもつ特別な能力。それが事件の原因になります。 主人公は夢という形で、自分の意識を支配しようとするもうひとつの 残虐な人格を認識します。これは心理ホラーではよく見られる二重人格もの の設定です。 しかし、それが本当に自分の中でのことなのか、 それとも他人の意識を共有しているのかが最初はわからないということによって、 物語は単なる心の問題にとどまらない広い世界をもつに至っています。 このようにしてストーリーの要素を増やすことで分岐に大きな意味をもたせ、 結末を多様化し、あるいはひとつの事件を違った角度から見ることを可能にします。 その意味で小説にただ選択肢をつけたのではなく、 選択肢を使える形にストーリーを作ったのだと言うことができるでしょう。

もちろんギャルゲーの中に分類するくらいですから だんだん愛が深くなっていく要素はあります。しかし 肉体関係になるまでの過程はほとんど描写されません。 メインになるのはやはり事件のことで、キャラクターの心情もそれに関係して 動いていきます。ですから、愛情がだんだん深まっていくような描写は ほとんどないのです。基本的に最後に秘めた心を明かされて 結ばれるのではありますが、 これはむしろ事件によって傷つけられていた二人の心が 互いに求めあう原動力のひとつになったと解釈すべきでしょう。 なお、ヒロインのうちひとりはある意味「卑劣な」設定 をもちいてその感情を説明していますが、それでも 突然すぎる印象は否めません。 だれに関しても再会して数日でそういった関係になるわけで、 いかに異常な事件の中にあるとは言え 恋愛関係をはぐくむには短すぎるのです。 しかし、描写がうまいためなのか、私は 勝手に結ばれるに至るまでのヒロインの秘めた心を想像して納得してしまいました。 たとえ心の傷が原動力であったからといって、 一体何がうしろめたいことがありましょう。 私はむしろその心の動きを人間らしさのあらわれとすら感じたのです。 描写のすくないことがかえって私にキャラクターの存在感を感じさせる原因に なってしまったようです。

ただ、ストーリーそのものはそう独自性のあるものではなく、 何かの寄せ集めのような印象をうけることは否めません。 特にSF的な設定があきらかになるに及んでは、 そこまでひろげず、もっと伝奇要素にしぼっていった方が いいのではないかと思ったりもしました。

文章

中道を行く文体だと言えます。飾りがすぎることもありませんし、 そっけなさすぎることもありません。文体が固いわけでもなく、 くずれすぎてもいません。自然体な文章だと言えるでしょう。 風景描写も世界を感じさせる程度にとどめて いますし、クライマックス付近の語りシーンも「これ以上はくどい」というギリギリ の線で止めています。またリズムもよく、くどく語るシーンの後にはすこし そっけない描写をいれてバランスをとり、かえって感動を高めています。

ただ、もちろんまともな小説家にくらべれば言葉の選択や、 文末の表現に関して相当稚拙な個所が多くあります。 しかし、それでもこの手のものとしてはかなり 高いレベルだと言えるでしょう。 はやりの「〜ッ!」も乱用をさけて効果的に使っていますし、 「朝!朝!朝!…」などの極端な反復も多用せずに味つけとして使われている 気がします。また、文字の選択にも気をつかっているようで、 漢字でかくか仮名でかくかで印象がまるで違うということを思いしらされました。 私は末っ子の台詞の中で「ともだち」とひらがなで表記されている のを見て、ほのかに人柄や感情を感じられたのです。

ただ、やはり未熟のあらわれなのか擬音がうるさく感じられます。 日常のなかでのちょっとした 音には感覚的な擬音による表現もいいのですが、クライマックスに及んで 悲痛な状況の中で戦う時に「ズシーン」などの擬音を使われると多少緊張感を そがれる気がします。やはり擬音は基本的には使わない方がいいもののようです。

登場人物

まず、ギャルゲーとしての視点でキャラクターをみてみましょう。 おっとりした中に厳しさを秘めたお姉さん、 おてんばで面倒見のいい高校3年生、 もの静かで無口でなにかを秘めたような高校2年生、明るく主人公を「お兄ちゃん」 とよんで慕ってくれる高校1年生。この4人です。彼女達は姉妹で、 主人公のいとこにあたります。 ギャルゲーとしてみれば、身内しかいないというのはめずらしいところでしょう。 年齢について言えば、主人公は20才前後ですから3人が年下になり、 一見バランスが悪いようにも思えますが、 年下系のつくりをしているキャラクターは下の二人だけで、 次女はむしろ同年代の女の子としての役割をはたしています。 よくある学園系ギャルゲーではひとつ下の娘がやけに子供っぽく描かれることが多く 不自然にみえるものですが、このゲームでは年下系は4〜5才下であり、 その意味では不自然さはあまり感じません。ただ、一番下は年のわりには口調などが 幼すぎる印象があります。このへんはラインナップ上の問題でしかたないのかも しれません。普通ギャルゲーには年下キャラが必須であり、それもできれば中学、 あるいは小学生レベルまで年齢をおとしたいものなのです。しかし、さすがに それでは問題があるので、中身(人格あるいは体)は子供だけども 設定は高校生というのはもはや定跡となっています。 これもそれにならったと考えれば納得できないほどのことでもないでしょう。 しかしながら、あざとい印象をあたえることに変わりはないので 多少やりすぎたのではないかと思います。

性格や年齢以外の特徴で、私がすぐれていると思ったのは 長女と次女の料理に関しての特徴です。ふつう、「おしとやか系」には 「料理がうまい」を組みあわせるものですが、これでは全く逆になっており、 次女は料理がうまいけれども長女はまったくダメという設定です。 長女は両親が死んでいるために母の役割もはたさねばならず、 これで料理までできてしまうと、あまりにもお母さんっぽくなりすぎるのです。 姉でありながら母の役もこなさなければならない辛さ、理不尽さというものを出すには なにか欠点があってそれを気にしている方が適していると思います。 また次女も料理がうまく面倒見がいいという特徴があることで、 ただのガサツな娘ではなく両親をうしなった家族で役割をはたそうとしてきた 気持ちがみてとれるのです。彼女と主人公の関係は 「今まで弟みたいなものだと思っていたけれども、やはり女の子だったんだな」 という形で進展していきますので、料理という要素はそれを予感させるものとして の効果もあるといえるでしょう。

ルール

選択肢だけです。単純にそこで分岐するとは限らず、あとあとの進行に影響したりして バッドエンドの原因はわかりにくくなっていますが、もともと選択肢の数が多くなく、 ひとつのシナリオも数時間以内におわるのでそれほど負担にはなりません。 一度エンディングまでいかないと表われない選択肢が多く、 シナリオを読む順番が意図的に操作されています。 確かにいきなり裏話的なシナリオに行って しまえば興覚めですので、この手法は卑怯とはいえないでしょう。 また、エンディングのあとでは新しい分岐が 出現したこともふくめてヒントを言ってくれるので、 ある程度までは攻略もやさしくなっています。 選択肢の質もよく、主人公の人格をガラっとかえてしまうようなものはありませんし、 さほど理不尽なものもありません。 また、いろいろな分岐をすすむことでひとつの事件のいろいろな側面を 見ることができ、単なるヒロイン選択になっていないのもいいところです。

処理速度については、何もいうことはありません。 ペンティアムもあれば十分でしょう。 また、操作性についても不自由はありません。シナリオスキップも ショートカットキーがあって楽ですし、シナリオ回想や「前の選択肢にもどる」 まで用意されています。ただ、クリア情報を共有したセーブデータがもっと多いと 楽だったとは思いますが。

まずフォントについて。大きくて読みやすく、雰囲気にあったフォントです。 画面全体に表示されるのも読みやすくなっている要因だと思います。

で、絵柄ですが、きっつい絵です。下手とはいいませんが、うまくはないでしょうし、 すくなくとも独特の絵であることは確かです。顔の部品のバランスが変わっていて、 キャラがおさなくなるほどすごくなっていきます。 また、体についてもふつうはもっとふにふにした感じにするものなのですが、 かなりやせています。折れそうです。特に三女と末っ子は。そのわりに顔が 大きいので、どうもこわいバランスになっています。

このゲームはもともと98用だったためにWindows用のものでも 16色です。しかし16色にしてはかなりがんばっているようで好感がもてます。 色がすくなくても質が高くなるように全体を同系統の色でまとめており、 よく雰囲気がでていると思います。

あと背景についてですが、単色化した写真をもちいています。 16色という制限をかんがえれば無理はありませんし、下手に質の悪い絵をかかれる よりははるかに雰囲気がでてよかったと思います。

音楽

いいです。これほど音楽がいいものはそうは見あたりません。 曲を聞けばシーンがうかんでくるように頭が改造されてしまいます。 しかしながら、 ピアノ曲のピアノの音がいまひとつきれいではないのが残念ではあります。

総合

最初にも書きましたが別格です。変なことも新しいこともほとんど していないのですが、こういうものをエロゲの範疇で作ること自体がおどろきでした。 絵がごっついのもその印象を強めています。 というわけで、絵を重視する人はおそらくプレイすることはないでしょうし、 文章をよんで想像力をはたらかせるタイプの人でなければおもしろいとは おもわないでしょう。


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