ONEのスタッフが作った作品ということで期待も大きかったこの作品ですが、 評価はとても微妙なものになりました。それにかなりONEに似てしまった ということもあり、「ONE2」などと言われる様が目に浮かびます。 しかし、あえてONEとの比較を軸にして書きます。 これによって何がONEと違い、何で勝負しようとしたのかが明らかになるはずです。 KANONを読んだ人ででONEを 読んでいない人は少数でしょうし、 もしONEを読んでいないなら、そちらもすすめたいという意図もあります。
あいかわらず非物理なストーリーです。 しかし、それでも前作のONEに比べればかわいいもので、 かなりわかりやすくしようと意識したことがみてとれます。 しかし、それがかえって裏目に出ました。 結論から言えばストーリーを普通にしようとするあまり、 ムリが出てしまっているのです。
基本的にONEでは感動は個々のシーンで生みだされるものでした。 個々のシーンでのキャラクターの心理と心が感動を呼び、 それを裏づけるのは無理のない心理状態の変化でした。 決してストーリーそのものではありません。 ストーリーがいかなるものであるにせよ、 キャラクターの心が問題だったのです。 その意味で今回はいくつかのシナリオでハデに失敗しています。 下手に普通のストーリーをつけたため、 それにひっぱられるようにキャラクターの心理を変化させてしまったのです。 結果としてキャラの言動や行動にいくらか唐突な印象を受けてしまうことになります。 展開も陳腐な印象を拭いきれず、どうにも残念なものを感じるのです。
なお、今回はストーリーの展開のさせかたでONEとは違いがあります。 ONEにおいては、平穏な日常の描写にだんだんと非日常がせまってくる のを感じさせるために日常と非日常を交互に描写し、 しだいに非日常の比重が高まってくるというリズムで展開させました、 これを横揺れでくるストーリーだとすれば、今回は縦揺れです。 もう最初からある程度ストーリーは見えており、 その結末へむかってつきすすみます。 ただ、その突きすすむ速度に緩急がついており、 それが絶妙なのです。 また、ONEでは「消える」という統一テーマを軸にすべての物語が 作られていますが、今回はそれがあまりありません。 「夢」という統一テーマがあるにはありあますが、 それを抜きにしても物語は成り立ってしまいます。 もうこのことからしてストーリーを手法が違っているわけで あたらしい試みをしようとしたことがみてとれるでしょう。 ただし、それが成功したかと言われると微妙なものがあります。
すべてのシナリオはヒロインが重要な意味を持つある設定の上に成り立っています。 それゆえ各シナリオにも何らかの統一テーマを盛りこまねばならなくなります。 しかし、ONEではその統一テーマがさほど特定のキャラに依存 しておらず統一が容易であった一方で、KANONは 統一テーマが完全にヒロインに依存しています。 従って、統一性を出そうとすればすべてのシナリオで ヒロインは深く関わってこなければなりません。 この設定の時点で一人一人を攻略するゲームという形式にするのは かなりむつかしくなってしまっているのです。 もっと各シナリオにヒロインを関係させればよかったのでしょうが、 それをせずに各キャラで独自のストーリーにしてしまったため 設定は統一されているし序盤はそれを表す詩が出るのにもかかわらず、 選んだキャラによってはそれらがどうでもよくなってしまう、ということがおきます。 つまりは中途半端なのです。
さらにストーリーの大半がありがちになってしまったことにも問題があります。 陳腐なストーリーは優れた演出で補えるものですが、 後に述べるようにキャラまでが陳腐っぽく設定され、 演出面もONEに比べると光るものがありません。 つまり、全体に「ありがち」な臭いを帯びてしまっているのです。 さらに、統一された世界観の中に非現実性があるのにもかかわらず、 個々のシナリオでそれとは独立の非現実性を入れてしまったため、 どうしても雑多な印象を受けます。 完全にシナリオを切り離して考えればいいのですが、 これらは本来伏線などの手段によって深く結びついているべきものです。 そうでなければこの形式の意味がありません。
そしてやはりHシーンはジャマです。なしで行けるシナリオもありはしますが すべてではありません。主人公の人格から納得できるような Hシーンであればいいのですが、残念ながらそんなことはありません。 そもそも明らかに自分よりもかなり年下の女の子にいきないそういうことをする段階で 間違っています。Hシーンに入るところも不自然ですし、中身もやはり不自然です。 そして、終わった後の女の子も不自然です。流通の制約上仕方ないとは言え、 いりもいしないものを無理矢理いれるのはやめてもらいたいものです。
さんざんけなしましたが、これはそれだけ言うに値するほどのレベルにあることを 意味します。個々のシーンは極めて感動的で、描写もていねいです。 しかし、それらが連続してひとつのストーリーになった時、 どうしても欠点が見えてくるのが残念なのです。
残念ながら、レベルが下がってしまいました。 ONEやMOON.のようにものすごい描写はあまり見られなくなり、 ちょっとした日常の描写でしか驚きを感じられなくなっているのです。 あいかわらず意表をついた表現が心地いいのですが、 どうも地味で、爆発を感じません。あきらかに完成度は高いのですが、 破壊力に欠ける気がするのです。 おそらく冷静になりすぎてしまったのでしょう。 ギャグも寒いものが多いですし、光る言葉がないのです。 わかりやすく、普通にしようとするあまり、 前の極端なまでに削りこまれた文章が面影もありません。 読解力がなくてもよくなったことを進化とみなすか、退化とみなくかは好みで 分かれるところでしょう。
しかし、それにしたって並のこれ系の文章にくらべればはるかに変で、 驚きがある文章です。やはり文章がうまくなっていることもあって、 完成度は前作に劣るともいえません。 それにはずかしいシーンをあまり連発させて冷めさせるような失敗もおかさず、 いい意味で冷静になっています。これは評価すべきことです。
なお、どんな些細なことでも「シチュエーション」に変えてしまう魔術は健在です。 ヒロインと納豆を食うだけのそのシーンが心にこびりつく。そんな 技を持っているのは私が知るかぎりこの人だけです。
かなり普通になってしまいました。 いうならば天然のアホさがなくなってしまったのです。 ONEのキャラはどれもムチャでした。そのムチャなキャラを丁寧に肉付けして 描写したからこそONEのキャラはあんなにも立っていたのです。 しかし、今回はギャルゲ的にしようとするあまり あざとさが出てしまっています。「うぐぅ」とか「あぅー」とかの台詞は ちょっと使う分にはいいかもしれませんが、あまり多用するとうるさいだけです。 ボケもやりすぎて不自然さが出てしまっています。
さてラインナップは次のとおりです。
ちょっと設定だけみてもムチャさがなくなっています。 一応、「いたずらガキ」は設定に関してはこの上なくムチャなのですが、 やはり性格や仕草がさほどでもありません。 描写がうまくなりキャラは十分に立ってはいるのは確かなのですが、 前に書いたように不自然さがジャマしてどうもはまりこむには至りにくいのです。 しかしながら最後の無口女だけはシナリオもキャラもムチャでいいかんじで うれしい例外です。
また、全般に 「シナリオ的に重要なシーンではキャラがショボくなる」 ということがあるように思えます。 前に書いたように下手にシナリオ主導なため、 キャラの特徴や心が出にくくなったり歪められてしまったりします。 極端な話、そのキャラのシナリオでない方がよりキャラの特徴が出ています。 しがらみがないぶん自由に描写できるわけです。 個々のシーンだけみれば感動的でキャラがいいのに、 つなげてみるとどうも…、というのはこのあたりが原因でしょう。
ここまでいっておいてなんですが、 ひとつ断っておきましょう。 みんないい奴です。 まぎれもなくキャラは立っていますし、 いっしょにいたら楽しいだろうなぁと思うようないい奴ばかりです。 その点ではONEに劣るところはありませんし他のものに比べても抜きんでています。
そして、ギャルゲ的視点で見ればやはりまだ失格です。 キャラがかたよりすぎています。そもそも小学生だか中学生だかわからないような キャラがいる段階で何かちがうでしょう。絵の印象もあるのでしょうが、 やはりロリ系に偏りすぎた嫌いがあります。 それにしてもそのへんでまだダメだというのは 却って私などは安心してしまいます。 なにせこれをギャルゲーと思ってやるのは明らかにまちがいなのですから。
選択肢つき小説です。そうとしか言えません。 分岐は単純で、攻略が必要になることはまずないでしょう。 それだけに、攻略する楽しみは皆無で、 むしろどの選択肢を選んだらどんな文章が読めるのか、 ということがルールからくる楽しみのすべてです。
なお、速度的には問題というほどでもありあせんが、若干描画が遅い気もします。 文章スキップの時も描画が速くならないので遅い印象は受けますが、 その程度はほとんど苦になりません。それより問題なのは あいかわらず文章をさかのぼることができないことでしょう。 その上一度に表示されるのは3行なので、 ちょっと読みそこねると大変なことになります。 あとすこし味気ないのはセーブ、ロードの選択などのメニューが ウィンドウズまるだしのインターフェースなことです。それくらいはちゃんと作って ほしかった気がします。その他は文字ウィンドウの色を変えられたり フォントの太さを変えられたりと気を使っているのでなかなかいい感じです。 それにしても、このプログラムはどう見ても「好き好き大好き」と 同じものを使っている気がするのですが。セーブデータ形式や ディレクトリ構造まで同じなのです。一体どういう接点があるのでしょうか…。
原画に関して言えば、ギャルゲー向きではありませんし、うまくもないでしょう。 むしろ下手です。 しかし「MOON.」、「ONE」とみてきた人間にとってはそれでも 進歩したなあと思えます。 あれだけ狂っていたデッサンもマシになり、 キャラの表情もさほど違和感なくかわいいと思えるのです。 しかし、所詮は「前に比べて」です。 いまだに「描きたいものしか描いてない」ことの害がみえます。 立ち絵には正面顔がなく不自然ですし、描き分けもまったくありません。 絵から得られる情報が少ないのも特徴でしょう。 「だれであるか」という識別信号と「どういう表情の記号か」という状態信号しか 受けとることはできないのです。仕草もほとんどありませんし、 年齢も絵からは全くわかりません。年齢相応な絵を描く能力くらいは 求めてもいい気がします。別にこれはリアルに描けというわけではなく、 その原画描きの世界の中で年齢が感じらればいいのです。 その意味でオバサンと女の子がほとんど同じに描かれているのはやはり問題でしょう。 また、一度に2人以上表示しないために背の比較ができませんし、 いちいちいれかわって不自然です。人物を大きく表示させたかったのは分かりますが、 それなら拡大縮小を用いるなりもっと絵をふやすなりすればいいだけでしょう。 せっかく画像と文章を使える形式なのですから、 画像にできることは画像でやるべきなのです。
一方色塗りのレベルがとてつもなく高くなっています。 トップレベルでしょう。特に背景のきれいさは他のものをよせつけないレベルです。 「To Heart」の背景を塗っていた「鳥の」氏が背景を担当しており、 そのせいかもしれません。写真を加工したりもしているようですが、 違和感なく絵の中にとけこんでいるのでやはり問題なしでしょう。
とにかく、絵柄以外のところでは一切不満はありません。 その絵柄ももう慣れましたし、それを通して別のものを見れさえすれば問題なしです。 なお、あれだけけなしておいて言うのもなんですが、 寝る名雪と箸をくわえる舞は私にヒットしました。 もちろん文章の力があってのことですが。
ハイレベルです。文句なしにハイレベルです。 しかし、どういうわけか心にこびりつく曲がありません。 ひょっとしたら心にこびりつくシナリオがなかったからかもしれませんし、 折戸氏の曲を聞きすぎたのかもしれません。 音楽だけを独立に評価するのはむつかしいことです。
ちなみに今回はテーマソングがついています。 オープニングとエンディングの曲です。 曲そのものは普通に売れそうな曲で、歌手もふつうっぽいのですが、 目玉はその歌詞です。おそらくはシナリオ書きの人なのでしょうが、 とんでもなく詩的です。今時めずらしく日本語だけで、 意味もよくわかりませんが詩的で恥かしいものすごい歌詞です。 そのあたりも売る気満々で作っているのに何か変という この作品の特徴をよくあらわしています。 ここで安心してしまうのは悪いことでしょうか。
誤解してもらってはこまりますが、私はこの作品がすきです。 まぎれもなくレベルは高いのです。ただ、ONEに比べて 売る気満々なところがあり、そのためにいろいろなものを犠牲にしてしまったのが 惜しいと言っているだけなのです。 残念ながら「変さ」や、勢いが衰えてしまっています。 しかし、より冷静に評価してレベルの高い作品を作ろうという意図が見えるのは いいことですので、これでまた勢いをつけてくれればより良い作品ができるのは 間違いありません。 それにしても、そろそろ「MOON.」のようにブっとんだ作品を作ってほしいと 思うのは私だけでしょうか。