「いちょうの舞う頃」総評(Ver.2)

告白します。 実は前回は全員のシナリオを読まないで書いておりました。 さすがにそれはマズかろうと思い、完全にやってから改訂することにしました。 「久遠の絆」のダメージからすこし時間がたっているので、若干冷静になっている と思います。

で、恋愛選択肢付き小説です。もうこれは分野とよべるものに なってきたようですね。このゲームはギャルゲーとしては独特の 雰囲気を持ち、私はけっこう気に入りました。絶賛ではありませんが。

ストーリー

あまりに普通すぎて、あらすじを書くことすら ためらわれます。現実こんなもんでしょう、ってくらいイベントが日常的です。 もちろんこんなに都合のいい現実もそうないでしょうが、そこはそれ。

基本的に上級生シナリオと下級生シナリオの2つに分岐し、その先でどちらを選ぶか という話になっています。そのどちらでも、ある片方を選ぶと選ばれなかった方が 泣き、もう片方を選ぶと選ばれなかった方が身を 引くことになるというように、似たような三角関係が発生するというしくみです。 そういうわけで、ヒロインキャラ二人のからみも多く、 キャラを4人にして、さらに二人づつに分けたことの長所がでています。 また、ありがちな「語りシーン」(クライマックス前後でキャラクターが 過去や秘められた感情について語るシーン。「泣かせどころ」になる。) がないのは斬新とも言える気がします。もちろん「無難」なだけだ、とも 言えるのですが。

文章

一見なんの特徴もないように見えて、実はかなり(この手のものでは)変わった 文章に思えます。べつに表現が凝っているわけではありません。むしろその逆です。 無駄なことは一切語らず、心理描写もほとんどなく、 あってもほとんど一言であっさりとすませていますし、 言葉もむつかしい表現でなくごく普通の言葉で語られ、 風景描写なども決して過剰にせず、 ほのかに雰囲気を出す程度にとどめています。 また、あたりまえのことですが、やたらと日常の描写が日常的で 驚きました。「ああ、そうだよな」と思ってしまうようなちょっと したことがさりげなく書かれています。どうでもいいことといえばそうなのですが、 私はそういうことに結構感心するタイプなので気に入りました。

ただし、それにしてもクサイせりふが多い気がします。一体何がおこったのか と思うくらいです。しかし、クサいわりにはしつこくなく、 それであまり気にはなりません。 しかもそんな時に限ってものすごい曲がかかるので、 感動どころか吹き出してしまいます。これは欠点なのですが、 私にとっては何か納得できる変な欠点です。

これに関して文章がうまいかどうかは私ごときでは判断しかねますが、 少くとも読んでいてひっかかったり、不快になるところはありませんでした。 「描写が足りない」という意見もあるでしょうが、これくらいにとどめて 読者の想像力をかきたてるというのも悪いことではないでしょう。 それに、書かれないために不自然だったりする箇所はほとんどないように思います。 この手の文章では書き手が酔っているのか未熟なのかは知りませんが あまりにもくどくなることが多いので、描写が少ないことは それだけで特徴となりうるでしょう。

基本的に「しめった」ものを好む私ですが、こういう「かわいた」ものも いいものですね。

演出

文章と音楽がつくり出す雰囲気がすべてだとも言えます。 ふつうの「ギャルゲー」と違って、このゲームにはプレイヤーを「感動」 させようという思いも、このキャラにはめてやろうという邪念も感じとれません。 あまりそういう意気ごみが感じら れるとかえって冷めてしまうことが多いのでこれはいいことだと思います。

また、 あざといシチュエーションも、あざといセリフも、泣かせシーンもさほどなく、 それが「ここが演出」という印象を与えない原因になっているのだと思います。 ただ、音楽はものすごく大袈裟なので、ここが「感動シーンなんだな」ということは わかりますが、ちょっとやりすぎていて、やっぱり吹き出してしまいます。

ヒロイン二人がかちあって気まずいシーンも結構あるのですが、 それでもさほど演出は凝ってはいません。ふつうこういうところはヤマですから、 なんとか盛り上げようとものすごい文章を書いたりするものなのですが。 私はかえってキャラの気持を想像してしまってより感情移入できた気がします。

あとどうでもいいことですが、妹が主人公の体をゆすって起こす シーンは本当にされたら気持ちいいだろうなあと思いました。 これは果して「あざといシチュエーション」と呼べるのでしょうか。 なお、「Hシーン」に関しては全くもってどうでもよく、 言及するのはさけることにします。

登場人物

設定そのものはあまりにも普通です。ラインナップとしては、おさななじみの先輩 、お嬢様で先輩、眼鏡っ子の後輩、そして、元気な体育会系の後輩と いったところです。上と下だけでタメの娘がいないのは特徴かもしれません。 なお、妹も出てきますが、彼女はあくまで脇役です。 あくまで妹で、そのうち他の男とデキたりします。

ちなみに主人公の人格ですが、 ひとことで言えば、「クサいセリフを平気で言える小市民」 です。ちょっとしたことで一喜一憂し、やたらとさりげなくクサいセリフを吐きます。 まわりに言たら殴り倒したくなるかもしれません。 そして、あまりにもニブい。こいつの親友もはがゆくて仕方ががなかったでしょう。 やっぱり殴り倒したくなります。

まあ、それはともかくとして、 基本的に地味でなんとなく「いい奴なあ」と思わせる雰囲気を持った キャラクターをつくっているようです。 母親や、妹、親友などは脇役としても十分に魅力的ですし、 ヒロイン達も普通ながら地味に「抜けている」ところがあったりして ほほえましく思えます。心理描写があっさりしていても行動やセリフから 人柄が感じられ、とても実在感があります。 (あくまでギャルゲーの範囲でです。誤解しないでほしい。) ちなみに、主人公の妹は私内部の「いもうとキャラランキング」で かなり上位になっています。「アニキ」という呼び方も新鮮でした。

ルールあるいはシステム

一切特別なことはありません。ただ選択肢が出てくるだけです。 ただ、操作性には多少の問題があります。文章をさかのぼることができませんし、 いちいちメニュー画面を呼び出さないと文章スキップができません。 このへんのところは他のゲームを参考にしてちゃんと導入してほしいものです。 また、多少処理が遅いのが気になります。画面の書きかえなどはそこそこ 時間がかかるので、できれば速いCPUでやった方がいいでしょう。 300MHz級であればどこが遅いのか全くわからなくなるでしょうが、 200MHz級では多少のひっかかりがあります。 それ以下の機械でのプレイは少々我慢が必要でしょう。 (といってもプレステやサターンのゲームをやるのに比べれば天国である。) さらに、チャイムや日が変わるときの音楽は鳴りおわるまで次の画面に行かないため、 最大12〜13秒待たされることになります。音楽を切れば待たずにすみますが、 やはりこのあたりのことは考えてほしいものです。 セーブデータの日付も実時間だけでなくゲーム内の日付も 書いておいてくれると、どこでセーブしたかがわかりやすくて良かったでしょう。 特に問題なのは文章スキップの際にも画面表示のウェイトが解除されないことで、 速くなるのは文章表示だけなのであまり「飛ばしている」気になりません。 これはかなり問題であると思います。次回作では改めてほしいものです。 せっかくパソゲーですし、プログラム本体のバージョンアップでもして 配布してくれるとうれしいのですが。(できるはずだよな。今の時代。)

なんか濃い、クセのある絵です。何がどうとはここでは説明できませんが、 なんとも変わった絵に思えます。(ま、アニメ絵の範囲での話ではありますが。) ふつうギャルゲーを売ろうと思ったらこういう絵は描きません。 なお、絵がうまいかどうかと聞かれれば、「下手」という他ないでしょう。 平気でデッサンが狂っていますし、髪型が変わったり見る角度が変わったりすると、 もうキャラの識別は不可能になります。センスはいいと思うのですが、何分修行が 足りないようです。せっかく変わった絵で記憶に残りやすいのですから、 下手なのはとてももったいないでしょう。是非うまくなってほしいものです。

また、色塗りに関してはそう悪くはないのですが、いいとも言えません。 Windows世代になってから 昔ほど色塗りのレベルに差はでなくなりましたが、やはりまだ気にはなります。 しかし、どういうわけか背景はやけに綺麗なのです。 それだけに、原画の下手さとも相まって人物は非常に残念です。

しかしながら、変わった絵だということはやはり長所だと思います。 うまくても印象に残らないよりはずっといいのかもしれません。 普通の絵でちょっとくらいうまくても印象には残らないでしょう?

あと気になったことがもうひとつ。 通常シーンでの立ち絵の枚数がかなり少ないことです。 もともと起伏のないストーリーなので それほど致命的ではありませんが、微妙な表情の変化がもっとあると よりいい出来になっていたと思います。ただでも文章による心理状態の 説明があまりないので、そのへんで補えるとなかなか「メディアを生かした」 ものになっていたでしょう。すこしおしい気がします。 もっとも、あまり表情をかくのがうまい人ではないようなので それを求めるのは酷かもしれませんが。

結局、「原画書きのレベルアップに期待」。これにつきますな。

音楽

いいと思います。ただし、それはただ「音楽としては」で、 「ゲーム音楽」としてどうかと言われるとちょっと答に困ります。 なにしろ、なにかと大袈裟な曲が多く「こんなシーンでこんなすごい曲がなぜ?」 と思ったりします。ただ、それはいままでのあたりさわりのないゲーム音楽に なれすぎているからかもしれません。実際このゲームに関しては 音楽がマイナスにはたらいているとは言えず、 むしろこれによって独特の雰囲気をつくっている要因のひとつとして 評価できるからです。 なお、エンディングの歌はなにやら今風で (私がそう感じるだけで実はダサいのかもしれないが) 他のゲームと微妙に違っているところがこんなところにもあらわれています。 ちなみに、どこぞのアイドル系ギャルゲーのように下手くそではありません。

全体として

強い印象をあたえるものではありませんが、記憶にのこるゲームであると思います。 なにより、ちゃんと個性を持っていますし、 媚びた印象をまったくといっていいほど与えないのも好感が持てます。 確かにいろいろと練り込みの足りない部分も見うけられますが、 なにせこれはこの会社第一作です。これからが楽しみな会社だと思います。


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