「銀色」感想

なぜかわからないけれども回ってきたのでやってみました。 WEBで名前くらいは見たことがあったのですが、 特に評判がいいわけでもなく、全然気にもとめていなかったのです。 しかしながらこの作品。ちょっとだけすごいお楽しみがあります。

ストーリー

何でも願いがかなうという銀の糸。それをめぐるいくつかの悲しいお話です。 いろんな時代を舞台にして、若干の時代的雰囲気をネタにしつつ いい話を見せるというのがコンセプトでしょうか。

で、 出来は普通といったところでしょう。悲しい物語ですが、 全般に悲しい展開にもってゆくのが強引すぎるのでいまひとつ 心を揺さぶりません。4人シナリオ書きがいて全員そう、 というのがまた残念ではあります。 一つだけそんなことがどうでもよくなるようなキワモノが混ざってはいるのですが、 それについては後で述べましょう。ストーリーそのものの強引さは それについても同様だからです。

あと、これを言うのは酷かもしれませんが、全体として一つの作品になっていません。 個々のシナリオに関連がなさすぎるのです。 最後のお話だけは種明かしっぽいものになってはいるものの、 別に明かしてもらってうれしいほどの種でもありませんでした。 これなら第1章から第5章、というような作りにせず、 1から3章を読むと4章が現れる、というようにした方がよかったと思います。 もっとも、いきなり3章を読まれることを恐れてこの構成にしたということも 考えられますが。

描写

全員がだいたいのレベルです。悲しいシーンは悲しい雰囲気を出しています。 何がどうなったか、という展開について考えることをやめれば そこそこ感動できるかな、というレベルです。 私などは人が死ねばそれで悲しくなれるタチなので そこそこはそんな雰囲気にひたれました。

さて、というのは5章中4章についての感想でして、 第3章だけは全く違います。作者の方向性が違いすぎるのです。 些細なすれ違いから離れてゆく二人の心、 と要約してしまうのは簡単ですが、そんな言葉では到底言い尽くせない ものスゴさがあります。それくらい描写がすごいのです。 いや、描写と言うのは語弊があります。 正確に言いましょう。毒舌と。

毒舌乱れ撃ち機銃掃射。「裏切者」「汚らわしい」などの 初級ワードに始まって、それはもう是非あなたの目で実際に 楽しんでほしいと思うくらいの多種多様な罵詈雑言が展開されます。 本当に怒ってる時にこんなすごい言葉思いつくかと 疑問に思うほど凝りに凝った毒舌がもうたまりません。 どう考えてもそれを言わせたいがためのストーリーでありキャラであり、 心の変化やら話の展開はそれはもう不自然なのです。 目的と手段が入れかわることがこれほどの結果をもたらすのか と感動すらしてしまいました。 それだけの毒舌を吐いていたキャラがちょっとしたことで あっというまにいい奴になって美しいセリフを吐いたりしてしまうあたりが、 作者の不覚悟か上の意向かは別として感慨深いものがあります。 あれだけ言っておいて「ひどいことを言ったわね」なんて反省された日には もう笑うしかありません。ラストシーンの唐突さなども是非直に見てほしい レベルです。なお、選択肢も意図的に痛いものが用意されているので 存分に楽しめます。

と、こう書いて終わりにするとあんまりなので多少は弁護しておきましょう。 話としては「痛い話」であり、笑う要素など微塵もないものです。 すれ違いが重なって抜き差しならぬ状況に落ちいるというのは 現実にもよくある話であり、やはり笑えるテーマではありません。 さまざまな事件によってそのすれ違いを蓄積させていくやり方も、 多少安易な手段によっているとはいえまあまあの出来と言えるでしょう。 というわけで、私も心理状態によっては素直に痛い話として 受けとっていたかもしれません。 ただ、あまりにそのすれ違いっぷりが豪快で、 台詞が不自然を通りこして豪快で、 展開もあんまりにも都合良く豪快だったもので、 あっというまにネタ観賞モードに入ってしまったのです。 しかし、作者も別にいい話を描いて泣いてほしいわけではなく、 ただただイヤなセリフを書きたかっただけな気もするので まあ作者をかわいそうに思う必要もないでしょう。 コメントを見る限りそう思えます。

心意気

どこで評価していいかわからないものを評価するために こんな表題をつけてみましたが、半ば冗談です。お気になさらぬよう。

で、まず第一は英語モードの存在です。 恐しいことにテキスト、音声ともに英語と日本語が選べます。 どういう意図でこんな面倒なことをしたのかは謎ですが、 テキストを日本語にして音声を英語にしていると なんだか不思議な気分になれます。 そんなにうまいものではないでしょうが、雰囲気だけ楽しむには十分でしょう。 どういう経緯でこういう無駄とも思えることに情熱を注いだのかは 全く謎ですが、ここまでやってくれれば文句はありません。

そして次はおまけシナリオについて。 おまけも作品の一部です。おもしろくないものを入れれば 作品のレベルは総合的に見れば落ちることになります。 何を言いたいかはおわかりでしょうが、おもしろくなかったのです。 下手な同人ネタと同レベルなものをプロが自分でやってしまったという 感じでしょうか。スタッフに某有名同人作家コンビが混ざっており、 おそらくは彼等の仕業であると思われますが、 ちとこれはやりすぎでしょう。JOJOネタをプロが絵つきでやってしまうのは どうかと思うわけです。いや、それがおもしろければ私も何もいいませんが、 さすがにあれでは寒すぎるのではないでしょうか。 急に作品の硬派度が落ちた気がして、少しイヤな気分になりました。 確かに元々そんなに硬派でもなかったのは事実なのですが。

キャラ

シナリオの要求通りで、ひねりもないキャラが揃っています。 微妙な個性も特に感じませんでした。泣きゲーキャラ、とでも総称してしまいたく なるようなラインナップです。

ところで、毒舌姉さんだけやはり浮いています。

ルール、システム

プログラム面の不安はさほどありません。 自動再生などの機能も充実しています。 速度も遅いということはありませんでした。 読み返しでなぜか直前の文章が表示されず使いものにならないという 妙な仕様があることを除けば、まあまあ合格点でしょう。

ただ、インストールが問答無用で900MBというのはあんまりです。 英語音声がおそらくは300MBくらいは占めていたはずで、 そういうものを切ることができないというのは不親切にすぎるでしょう。 それくらいはちゃんとやってほしいものです。

なお、ルール面については言うことはありません。 こうも一本道だと選択肢の質がどうだなどと言うのもバカバカしくなります。 ゲームという言葉のイメージからはかけ離れた作品であることは確かです。

某悠久幻想曲を思い起こさせる系統の絵です。 はっきり言って雰囲気に合っているとはとても言えませんが、 まあそれほど気にすることもないでしょう。 かわいいにはかわいいからです。 ただ、この人はオッサンが致命的にへたくそなので そのあたりが雰囲気ブチ壊しといったところでしょうか。 賭けてもいいですが、この人絶対オバサンはかけません。 そういう絵描きは珍しくはないのですけれども。

次は背景についてですが、何か妙です。 風景などは変わった感じでいいのですが、 具体的な物体が妙に3Dっぽくてキャラの絵柄にまるで合っていません。 キャラが花を持っている絵があるのですが、 明らかに花だけ異次元に位置しています。 やはり調和は大切です。

なお、画面レイアウトはなかなかかっこいいです。 中央に映画比率のスクリーンを置いて余った黒い部分に字幕、というのは なかなか風情があります。フォントが小さくてアンチエイリアスがかかっているために ボヤけて読みにくいという欠点はありますが、 この演出をするのなら解像度を上げる以外の方法で 避けることはできなかったでしょう。 というわけで許せます。

曲は普通でしょうか。単体でよく聞いたわけでもないのですが、 悲しい曲といえばこう、という感じだったように思えます。

声ですが、メインヒロインしか声がない、という段階で不覚悟を感じます。 特に第3章の毒舌姉さんに声がないのはあまりに残念でしょう。 もっとも、あれに声をあてるとするとそこそこのレベルが要求されるので 下手にヘタクソな声をあてられるよりはよかったかもしれません。 ところで、英語についてはあまり聞いていないので 評価は差し控えておきます。 ネイティブとは思えない発音だった気はしますが、それもうろおぼえなので 単なる印象にすぎません。

全体として

出来は丁寧で売る気迫も感じられますが、 残念ながら個々の才能がついてこなかった上にまとめ役を欠いた、 という感じでしょうか。結局は第3章。これにつきます。


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