C's wareの98時代の作品の焼きなおしです。 それだけに古くさい作品ではありますが、 声や動画をいれたりしてなんとか新しいものにしようとしています。 しかし、やはり中身はそのままでした。
ある研究機関がある南海の孤島。情報公開がまったくされないこの島で 何がおこなわれているのかについては黒いうわさが絶えない。 そんなとき、新聞記者である主人公は突然そこの取材を許可された。
…、というふうに物語は始まります。 この物語には視点が3つあり、3人の人間からの視点で 同じ出来事をたどっていくことになります。 まずは新聞記者のアルバート、そしてその恋人であるDESIREの技術主任であるマコト。 あとの一人はネタバレになってしまうから書きません。
この作品は良くも悪くもこのシナリオライターの特徴が良く出た作品です。 とにかく設定で最大限にハッタリをかますのが好きなようで、 科学考証などもなにやらすごそうですがめちゃくちゃなのです。 秘密の装置が出てくるのですが、 この装置が生物学の装置なのか物理学の装置なのかが判然とせず かなり御都合主義的な設定になっています。 遺伝子組み変えの装置と次元移動の装置が同一というのはやはり マズいのではないでしょうか。 後の作品ではこういったムチャな設定をキャラを立てる道具にしていくのですが、 この作品ではそこまでは至らず、科学者の葛藤を描き、 ヒロインの設定を整えるための道具にしかなっていません。
さて、最大の問題は結局どういう因果関係と時間の順序で物事が起こったのかが よくわからないということです。 異次元くさい世界に飛ばされたり、時間をさかのぼったりしている らしいことは理解できるのですが、あまりに不条理な現象が多すぎます。 (くわしくは最後のネタバレ解析を参照) やっている時は演出でダマされるのだが よく考えればどういうことなのかさっぱりわからないという 結構ありがちなタイプの作品になってしまっています。
なお、この作品はエロゲーです。 無用なエロシーンが大量に出てきます。 しかし、一部のエロシーンはストーリーの流れにも影響しているため 省けばいいというものでもありません。 サターン版がどのようなものなのかは興味があります。 ちなみにこのシナリオライターはそういうシーンがとても下手なので、 ただのお荷物にしかなっていません。
残念ながらあまりいいできとは言えません。 どうしてもストーリーの流れにそって作られたような印象があるのです。 とにかく人格が一定せず、不条理です。 特にマコトは一体何がしたいのかよくわからないキャラクターになって しまっています。主人公も、シナリオライターの特徴をよくあらわした お調子者なのですが、後の作品の主人公ほどかっこよくありません。 とにかく軽口をたたきまくるという特徴は一緒ですが、 ただそれだけになってしまっているのです。 これでは魅力的とはいえません。 また、まわりの女性達もあまりに都合がよく、 せっかくの凝ったストーリーに似ず単なるエロゲー キャラになってしまっています。ただ、ヒロインとのHシーンがないのには 度肝を抜かれました。そこだけは譲れなかったのでしょう。
しかしながら異常に出来のいいキャラクターがひとりだけいます。 3人目の主人公です。この作品のシナリオはすべて一人称で語られるのですが、 最初のふたりのシナリオは地の文がなくすべて台詞です。 しかし3人目のシナリオには地の文が入ってきます。 シナリオの内容もいわば最後の種明しであるために重く、 台詞による状況説明では軽くなりすぎます。 地の文によってそれがひきしめられ、いい雰囲気を出しているのです。 この独白はとてもかっこいい上にかっこいい声でフルボイスなので 一見の価値ありでしょう。むしろここがこの作品のメインであると言えます。
なお、キャラの大半は若い女性で、研究所の主要人物には男がひとりしかいません。 こんなことは不自然なのですが、 これくらいはギャルゲーということで許してあげましょうね。
古い、選択肢を選んですすめるタイプのゲームです。 昔アドベンチャーなどと呼ばれたジャンルになるのでしょうか。 何をしても一本道なので、結局延々と然選択肢を選んでフラグを 立てる作業をつづけることになります。 せっかく3つもシナリオがあってもその間にはフラグ面での関係がないため、 ひとつづつやって終わらせてしまえばいいだけです。 やはりただWindowsに移植して出すのは無茶だったということでしょうか。 シナリオ担当がすでにこの会社にいなかったというのも 辛さに拍車をかけているのでしょう。 残念ながらルール面ではまったく見るべき点がありません。 やはり今となっては古すぎるのです。
あまりきれいとはいえません。 原画はともかくとして、 彩色が完全なアニメ塗りなうえに粗いので、 どうも印象が悪くなっています。 おそらくサターン用に描いたものそのものなのでしょう。 解像度が320×いくらで家庭用テレビであればきれいに見えても、 640×480で鮮明なモニターで見ればどうしてもアラが見えます。 やはり、パソコン用のゲームにはより高い水準が求められるようです。
売りのひとつです。 しかし、前に述べた理由であまりきれいではありません。 ただし、よく動いてはいます。 ひとつ残念なのはオープニングの動画が内容に全く関係ないことです。 そのうちあのシーンが出てくるのだろうなと思ってやっていても 結局そんなシーンはありませんでした。 やはりありもしないシーンの動画をオープニングにすえるのはヤバい、 というか詐欺でしょう。
曲に関しては私は何も言えません。 このゲームはハードウェアでMIDIを慣らすタイプなので、 うちのショボくさいFM音源ではなんとも評価できないのです。 しかし、それをさしひいても曲で印象に残るものは全くありませんでした。
で、声についてですが、Hシーンを除いて不満はありません。 かといってそんなにいいとも思いません。 なお、Hシーンはちょっとひどいのではないかと思ったりもしますが、 もともとどうでもいいので、どうでもいいです。 なお、第三の主人公の声などはかなりかっこいいで、 この声だけは聞いていました。
まず、古くさいです。 そして未熟です。 そしてなによりも、その古くさくて未熟なものをいまさら(Windows時代に、の意) 動画と声だけつけてそのまま移植するというのはあまりにも無茶です。 しかし、剣乃ひろゆき(シナリオ担当)の足跡をたどるという意味では なかなかおもしろいかもしれません。 やはりこれほど複雑な話を矛盾まみれにしても組みあげるというのは 相当な力だと思います。 未熟ななかにもまぎれもない剣乃の個性が生きているのがわかるでしょう。
ここから先は内容にふれます。やっていなくて、 やる意思のある人は読まないことをすすめます。
まず、 第三の主人公、むしろ真の主人公であるマルチナ(またはティーナ) がどのように生きたのかを整理するところから始めてみましょう。 なにぶん複雑なので、ゲーム開始の時点からおってみることにします。
彼女は国籍、経歴不明の学者で才能を財団に変われて総監督として DESIREに赴任します。元の夫グスタフもまた科学者で、過去に自分の死を偽装 して社会的には死人となりましたが、 やはりDESIREにドクターとして赴任しています。
さて、物語終盤において 彼女は次元を越えたり体の遺伝子を組み変えて変身させてしまったりという どちらかにしろよと言いたくなるような装置を作りあげ、 それでティーナとアルバートを異次元っぽい世界のDESIREへに飛ばしてしまいます。 これから彼等ふたりはその世界でふたりきりの生活を年間もするわけですが、 不思議なことにアルバートは老けていかないのに、 ティーナはちゃんと成長しています。 そしてその世界で6年後、グスタフが例の装置でやってきて、 結果アルバートとティーナは別れ別れになります。
さて、 アルバートはこの時に元の世界に帰りますが、 ティーナはどうやら20年くらい前のどこぞの 国に飛ばされることになるようです。そこでグスタフと知りあうことになります。 ティーナは6年間無人のDESIREでマルチナの部屋の本を読み あさってめちゃくちゃな知識をつけているので、 それをグスタフに見初められるというわけです。 これは後にマルチナがそれを覚えていて、自分で自分の部屋に基本的な本を おいたということを意味します。 その後、おそらくグスタフとの間に子供ができ、 その娘に自分のティーナという名前をつけた、ということになるのでしょう。 娘と母ですから似てはいるが、そっくりではないというのも納得がいきます。 そうしてその後20年くらいしてマルチナとしてDESIREに赴任してきます。 そしてアルバートと再会するのです。しかしアルバートは マルチナがティーナであるとは知りません。 さて、ふたりが異次元へと飛んだときマルチナは装置の力で30年ほど若返り、 さらに数日前のDESIREの浜に記憶を失って移動します。 そこでアルバートと出会うのです。 こうして物語の最初に戻り、これは無限にくり返されるかに思えます。
さて、第一の疑問です。マルチナ、すなわちティーナはそもそも最初 はどこから生まれてきたのでしょうか。 この展開では彼女は12歳前後から40歳前後まで生きて、 また12歳前後にもどることになります。では12歳までは一体どこに? これは、キテレツ大百科の航時機のパラドックスと似ています。
さて、考えてもわからないので、 ハッピーエンドだと思われるエンディングの展開でも解釈してみましょう。 ただい、これは元の98版にはなかったということで、実はこのシナリオライター が書いたわけではないらしいということです。 確かに、これによってさらに矛盾が増えてしまいます。 まず、ティーナとの年間の生活に唐突に終止符を打たれてもとの世界へ帰った アルバートは、数年後に再びDESIREヘ行き そのころ総監督になっているマコトの助け を借りて、例の装置でティーナと別れた現場へ行きます。 異次元DESIREでグスタフがやってきた日です。 そして、ティーナと会い、共に20年前のどこかわからない国へ 飛ばされます。ティーナにしてみればアルバートを助けて残った直後に アルバートが現れるわけですから、なんとも不思議なものです。 その結果、グスタフとは結婚せず、アルバートとティーナは一緒に 生きていくことになるのでしょう。よって、マルチナは存在しなくなり、 アルバートはマコトと恋人だった記憶を持ちながらも恋人にはならず、 おそらくは装置も作られません。もう何がなんだかわからないでしょう?
とにかく、マルチナが装置を開発する動機が一番の鍵です。 マルチナが持っている記憶はティーナになって浜でアルバートに会ってからですから、 彼女は妨害が入ったりグスタフがどういう行動をするかは知りませんが、 流れついたという少女が自分であることは知っています。 また、彼女は自分が若返ってティーナになることは知りません。 だからこそ自分の部屋に基本的な本をおいて、 ティーナに勉強してもらおうとしたわけです。 さて、この基本的な本を置いたということは ティーナ、すなわち自分が科学の道に入ることを望んでいたことを表しているわけで、 彼女はそこまで装置の完成に執念を燃やしていることを表わしています。 そして、その動機は「螺旋を断ち切ること」であるはずです。 とするならば、なぜ装置が完成すると螺旋が断ち切れるのかがわからねばなりません。 しかし、ここが難題です。彼女は完成した装置で(流れついた12歳の)ティーナを どうにかしようとしました。そこにグスタフやらアルバートが現れたのは 誤算だったようですから、あくまでティーナをどうにかすることによって 螺旋が断ち切れるわけなのです。しかし、なぜあの装置でなくてはならないのかが そもそも判然としません。考えても結局材料が足りないのです。 そして、例のハッピーエンドがないものとすれば、 結局螺旋は断ち切られず、永遠にこれが巡っていくことになります。 なんとも悲しい物語です。そして悲しいのですが、やっぱりわからないのです。
こんなもので、 話そのものは凝ってますし、出来はいいと思います。 しかし、このわけわからなさはどうしたらいいのでしょうか。 やはり多少蛇足だと思っても種明しは何らかの形で置くべきだと思います。 作品のレベルを下げるのが嫌ならばおまけとしてでもいいのです。 でないと、やっている人が混乱してしまいます。 特にこの作品は話そのものが複雑なうえに伏線がからみあい、 群を抜いてむつかしいのですから、それくらいはしてほしかったと思います。 でも「ひょっとして、他の人はわかっているのか」と自分の読解能力が 不安になります。