「Air」感想(Ver.010312)

変なギャルゲーを出していたはずなのになぜか流行ってしまって メインストリートになってしまった奴等、というのが私のkeyの印象です。 彼等がかつてない労力をつぎこんで作ったとんでもない作品、 それがAirでした。なにかと物議をかもしたこの作品の感想を書くのは 怖いのですが、いつまでも放っておくわけにはいかないでしょう。

なお、ネタバレを防ぐために具体例がなく、案の定意味不明です。 やってない人には雰囲気で察して頂いて本編をやってほしいですし、 やった方は「あれのことか」と頭の中で具体例を思いうかべてもらうよう おねがいします。なお、最後に ネタバレ部を設けておきます。 そっちの方がノリノリです。

お話

しばらく心を破壊されました。精神攻撃かと思うほど強烈に来ます。 あくまで私の場合ではありますが、おだやかな感動などというものではなく、 娯楽の枠をはみ出したような種類の感動でした。 しかし、どう何で感動したかを言うのは最悪のネタバレですので、 この先はこまごまとしたその感動にあまり関係のないことを述べます。 いろいろケチをつけていますが、そんなものは 私のがこのゲームによって受けた動揺の大きさの前では些細な問題にすぎません。 あくまで頭でっかちな批評であって、このゲームの本質は別にあるのだと 考えてもらえるとうれしいです。

さて、話ですが、変なお話です。ギャルゲーとしてはという条件つきですが、変です。 ネタバレをせず的確にあらすじを書くのはむつかしいので放棄します。 とりあえず、手を触れずに人形を動かす力をもった主人公が ふと立ち寄った町で起こるお話です。これだけでは何がなんだかまるでわかりません。 しかし、私が手にできた前情報もその程度で大差ありませんでした。

ギャルゲーと言えばたいがいは女の子とラブラブになるのがメインのシナリオですが、 これはとりあえずまるで違います。あるお話の中で、そのお話の要素として 二人が出会い仲良くなるというだけのことでしかありません。 かわいい女の子で読者を直撃しようとか、あざといシチュエーションで攻めようとか そういうものは皆無に等しく、本当にお話メインなのです。 これほどお話なギャルゲを私は見たことがありません。 エロシーンなどあってもなくても何も変わらない程度の物体ですし、 ラブラブになってハッピーという描写などありません。 なきに等しいというより、ありません。 つまり、おそらく他のどんな作品にも負けないほどギャルゲーではないのです。

加えて、ちゃんとしたヒロインは実は一人しかいません。 三人いるにはいますが、うち二人は読むのが必須なおまけシナリオ といった感じで、まるで本筋はわからないものです。 世界観を別口で語るために存在しているとも言えますが、 書いている人が別な上にいまひとつ本編との関連がなさすぎるため、 あってもボリューム以外の意味ではあまり貢献していません。 もちろんその二人のどちらかに萌えな人はいるのでそういう人にとっては あってよかったわけですが、この作品の本筋であるお話を表現するという 観点から言えば、まあどうでもいいと言って差しつかえないでしょう。 さらに、そのメインヒロインすら、普通のギャルゲー的な意味では たぶんヒロインではありません。主人公(女)という意味であれば ヒロインと言ってもいいでしょうが、それはラブラブになる対象としての ヒロインではまるでないということです。

なお、やっぱり彼等の作品らしく非物理です。しかし非物理のわりには こまごまとした設定が多く説明され、一部を除いて因果関係はそこそこ はっきりしています。なんでだよ、と言いたくなる部分もないではありませんが まあ大筋「こうだからこう」と言うことができるのではにでしょうか。 いままでの作品に特徴的だった問答無用さをどうにかしようという 意図だと思いますし、 それは多くの人々にとっては理不尽な印象を軽減させるというプラスの効果があった ものと思いますが、 別のある種の人々にとってはかえってじゃまだったかもしれません。 そういった設定の説明によって理知的な要素が増えた結果 情緒とか感情に属する世界が多少ぼやけてしまったからです。

表現というか小ネタ

文章がどうかと言われれば、人がたくさんいるので一概には言えません。 ただ、総じて読むのが辛かったり、気になったりするほど 下手くそな人はいないので問題はないと言えます。 ただ、モザイク状にシナリオを組み合わても整合性がとれるように との配慮のためかいまひとつ文章が光りません。 シナリオが完全に分岐した後には個人の感性が爆発しているのですが、 それまではなにかぎこちないのです。これほどの量になると一人で描けというのも 無理なのでしょうが、やはり物書きは一人であるに越したことはないのではないか というのが私の印象です。

それと小ネタについて多少触れておきましょう。 要はギャグ・キャラの口ぐせ・お笑い的な行動パターンといったもので 日常描写の説得力や作品の雰囲気、そしてギャルゲーにおいて一番大切な キャラの魅力を出すのにとても大切なものです。 しかし、この作品はそこで見事に失敗しています。

まず、ギャグは寒いです。無理矢理入れているのがありありとわかります。 寒いギャグを言うキャラクターに説得力や魅力がないかと言われれば 必ずしもそうではないのですが、ギャグが寒いと感じた時読者は そこにショボイ作者を感じてしまうのです。つまり、読者は作品世界から 出て作者というものを見ることを余儀なくされてしまいます。 要するに、萎えるのです。冷めるのです。 これは作品に没頭させる上で非常にマイナスです。 人間の心理(と言うとアレだがつまり女の子)を メインにした作品で作品の中に入りこめないのは致命的でしょう。 やはりギャグはおもしろいに越したことはなく、 つまらないのしか思いつかないなら入れない方がいいのです。 パロディのネタにどうぞ、という意味しかないようなオブジェクトが あまりに多く、確かにパロディをする側にとってはうれしくても 作品としてどうかと言われると寒いものがあります。 また、おもしろければ気にならない要素としてムチャさがあります。 どんなムチャでも、例えば女の子がカツカレーを7杯食おうとも おもしろければ問題はありません(ONEがどうかは主観によるが)が、 つまらない時はそのギャグがムチャであればあるほど余計に評価を下げます。 そして同様に脈絡がなければないだけ評価を下がります。 人は想定したことからちょっとだけ外れると驚き喜ぶものですが、 あまり逸脱すると理不尽さを感じて萎えるものです。 そのあたりちとやりすぎたのではないかと思います。 序盤の例を一つ挙げておきますが、いきなり「ラーメンセット」 とか言うのは最悪の部類と言えます。

キャラ

変人大集合です。ONE、KANONもかなりそうでしたが、それらすら凌駕するほどの 変人っぷりです。何が違うのかと言えば、それらのヒロインは変人ながらも いい奴でかわいかった一方で、Airのヒロインはどいつもこいつも まともに意思疎通できる気がしません。ネタバレのグレーゾーンですが、 これだけははっきり言ってもいいでしょう。 一応仕草的に、あるいは容姿イメージ的には (絵とは別の概念です。わかってください)そこそこかわいいのですが、 さてこいつと一緒にいて安らぐか、あるいは幸せかと言えば はなはだ疑問があります。単に私の趣味の問題かもしれませんが、 どうにも不安になるような気がしてなりません。 小ネタのところでも述べたようなムチャで脈絡がなくおもしろくない 小道具が多いのもマイナスポイントです。

ただし、メインヒロインは後半シナリオと一体になって 精神を壊しに来ます。シナリオだけであの衝撃は来ません。 あの、無条件には魅力的と言えない性格があの衝撃のためには 必要だったのです。

一つ言いましょう。普通がんばるということはいいことです。 見ている方は勇気をふるい起こされ、高揚し、要するに気持ち良くなります。 しかし、見ていて不安になる、あるいは空しくなる、さらには悲しくなる がんばりというのも一方では存在します。彼女はそれをこれ以上ないくらい 見事にやってくれるのです。痛々しくてたまりません。

なお、実は普通にかわいいキャラも出てきます。ちゃんとかわいいです。 そのあたりのシナリオ共々一沫の清涼剤となってくれますのでご安心を。

背景がメチャクチャきれいです。背景に限らず色塗りのレベルはとてつもなく、 まさに売り物として申し分ないものになっています。 なぜ背景観賞モードがないのか不思議でなりません。 なお、キャラの原画はいつもの通りですが、加えて不自然に頭身が高かったり 正面顔のツブれ具合が増していることによってさらに恐くなっています。 しかし、慣れることは不可能ではありません。事実私はあっと言う間に慣れました。

曲、いいです。テーマソングとか、強烈です。歌はあまりうまくないですが、 そんなことがどうでもよくなるくらい曲と歌詞が強烈です。 しかし、さすがに全部が全部強烈な曲というわけでもなく、 普通にいい曲が大半ではあります。曲を聞いてシーンを思い出すのは容易でも、 シーンの画面やテキストを見て曲が浮かぶかどうかはけっこう微妙ではあります。

しかし、夕焼けで観鈴があの顔でこちらを見つめていると、あの曲がかかるんです。 止めてください。

演出とかプログラムとか

売り物レベルは異様に高く、 演出はかっこいいの一言に尽きます。 絵の塗りのきれいさや曲の良さ、そして強烈なシナリオを まとめて最大限に効果的な形で見せようという努力とセンスが見えます。 タイトル画面の構成や日付表示、画面切り換えといった地味な 部分で手を抜かず、とてもいいものが出来ているのです。 是非実際に見てください。芸が細かいことに感動できると思います。

なお、プログラムはいつものビジュアルアーツです。 読み返しがついたのが最大の進化ですが、それ以外はあまり変わっていません。 画面の描き換えの時に横線が出るのが残念ですが、 それ以外に欠点らしい欠点はないと思います。

で、どうか

すごい作品ではありました。同時に惜しい作品でもありました。 しかし、感情の揺さぶりの度合だけ言えばまさにトップクラスで、 それだけをもってAirはすごかったと言ってもよさそうです。 シナリオやキャラの出来がいいかといわれても歯切れよく「いい」とは 言えないところがありますが、そういうアラを気にせず 無視してあげられるスキルがあるならばこの作品はかなり印象的なものに なると思います。


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ネタバレ部

ここではとりあえず各シナリオについて単なる感想を書いておきます。

佳乃

普通です。観鈴シナリオが強烈に辛いだけに、佳乃シナリオは 安心して読むことができます。聖の姉バカっぷりは見ていて ほほえましいですし、佳乃の頭弱いっぷりもまあうっとうしいというのはあるにせよ 観鈴シナリオを読んでいるのに比べれば天国のようにギャルゲーです。 シナリオはどうでもいいといえばどうでもよく、 まあ、「そこそこいい話」ということで納得しました。 過去変の羽がちょっと出てくるあたりは黒幕のはからいなのでしょう。 しかし、過去シーンの母親自害はいまひとつ意味がわかりません。 というか、過去シーンの意味そのものがいまひとつわかりません。 このゲームに関しては無理矢理理屈を動員してわかる努力をする 気が完全に失せているため、わからないものはわからないのです。

ところで、観鈴シナリオがなかったら佳乃シナリオもそこそこブルーなシナリオ だったはずです。聖姉さんの姉バカっぷりは「おまえ、自分のことも少しは考えろ」 と言いたくなるほどなもので、けっこう不安は不安です。 やはり自分のことを度外視した奴というのは見ていて不安になるわけで、 私としては佳乃よりも聖を幸せにしてあげたくなります。

美凪

一番無理した変人です。バッドエンドは美凪シナリオ、長い奴はみちるシナリオ というのが定説なようですが、言い得て妙でしょう。 にしても、お米券とか、まあどうでもいいネタをふって失敗している のが痛いです。そもそもみちる本体からして痛い気もします。 しかし、シナリオを読み終えた 後にみちる日常シーンの幸せっぷりを思い出すと、 そのはかなさに無常感がただよっていてけっこう素敵なので、 実はみちるもキャラは痛いとはいえシーンの要素として優秀だったのかもしれません。 それに、なんだかんだ言って、あんなガキンチョはかわいいのです。

ところで、美凪が妙にかわいいのが謎です。私はなに考えてるかわからない奴に 萌える体質なので仕方ないのですが、 それにしてもおかしいです。おそらく美凪というものを私は見ておらず、 なにやら変で謎でおだやかで背が高くて美人なものならなんでもいいのではないかと 思います。

さて、美凪シナリオはなかなかいい話でした。 踏み出して帰ってきてしまう方がいいです。痛いのがいいです。 屋上のそれは舞シナリオの二の舞なのでまあどうでもいいのですが、 痛い話はいいものです。これも実はちゃんとシナリオを見ておらず、 痛いシーンだというだけで騒いでいるような気もします。 なお、みちるルートはしつこく長いので、いい話で感動してしまったことは 認めますが、好きではありません。

観鈴、往人消失まで

いきなり辛かったです。なにより、こいつは何がしたくて寄ってくるのか がまるでわからないのが辛いです。この辛いは「いらいらする」という意味の辛いで、 まるでいい意味ではないのですが、 シナリオを全部読み終えた後ではこれが「いたたまれない」に変化してしまう あたりがすごいといえばすごいのでしょう。果たして売り物として どうかというのは疑問ではありますが。

さて、日常シーンも変です。 ギャグをはさんだ軽妙な日常シーンのフリをしていますが、 ギャグは失敗しているし、まるでかみあっていません。 しかし、シナリオを読み終えた後で振りかえってみると、 あの「いらいら」が何やらしんみりした無常感に変化していました。 観鈴にせよ往人にせよ晴子にせよ、 こいつらは人と接するのが致命的にクソ下手なのです。 設定上下手になるような必然性はあったようですが、 そんなことはどうでもいいことで、とにかく下手な3人が一堂に会してしまった というこの状況がミソでした。 それを表現するためにあのかみあわない、けだるいいらつきが支配する日常 シーンを書いたとすればすごいですし、そうでなくても結果的にそうなっています。

話が進んでくると、なにやら空の話になります。観鈴は泣きます。 しまいには病気になり、晴子はいなくなり、 ついには往人がさようならしてしまいます。 どうしようもありません。無力です。主人公どころか全員無力です。 みんな自分のしたいように、自分の良心に従ってがんばってはいますが、 結果だけ見れば無駄です。いたたまれません。報われません。 見ている私もたまりません。これは間違いなく不快なことです。 しかし、不快なものを見ることを快とする奇妙な回路が私にはあります。 おそらくAirを良しとする人々には等しくその回路が備わっているのでしょう。 このエンディングを見た時点ではもう完全に混乱状態でした。 バッドエンドに見えないにもかかわらず、ギャルゲーの文法から言えば バッドエンド以外の何者でもなかったのですから。 そして青空。卑怯です。

過去編

おもしろかったです。ちゃんとしてました。普通です。 出来がいいです。しかし、何か言い訳くさいのでこのシナリオを Airという全体の中でとらえた時にはジャマだと私は言います。 しかしこのシナリオ単体はいい話で、おもしろかったです。 このあたりの矛盾がむつかしいところですが、 そういう矛盾した感想は別に珍しいことでもないでしょう。

何がいいわけ臭いのかと言えば、別に神奈のあの話があってもなくても、 観鈴には何の関係もないことです。往人がその話を知って 観鈴を助けるヒントを得るとかいうなら話として連続性があるわけで いいんですが、別にそういうわけでもありません。ただ因果が示されただけです。 因果は意味や理由とは違います。意味や理由は意図があります。 こうしようという目的があります。それがないものは人間にとっては リアルではありません。逆に因果がない理由や意図は存在し得ます。 というわけで、あの観鈴シナリオをメインと考える時には、 私にとって単なるAだからBという関係などどうでもいいのです。 しかしあのシナリオはおもしろかったので、あって困るわけでもなく楽しめました。 このあたりの複雑な感想は私にもどうにもなりません。

ところで、おもしろかったとか言ってるわりには印象が薄いです。 神奈も普通にかわいかったですが、もう断片的にしか覚えてません。

観鈴後半戦

KANONの真琴シナリオよろしく、観鈴が壊れるシナリオです。 往人はすでにおらず、そらは語り手にすぎません。 主役は晴子であり、必死こいて娘との関係を築こうとする様が 心を打ちます。その美しさには問答無用なものがあり、 そしてシナリオもまた問答無用に破局を迎えます。 がんばっても、報われないのです。そして、晴子は観鈴が 何をがんばっているかを知らず、まさにいわれなく観鈴は死にます。 晴子にとってはたまりません。充実した時間を観鈴と過ごしたのは事実ですが、 充実してりゃいいというもんではないのは自明でしょう。 美しくても、充実してても、悲しみの前には全てがどうでもよくなります。 そして、その無残なまでに美しい晴子を見て我々は感動したとか言うわけです。 本当に晴子に感情移入した人は感動したとか言って手放しで 誉めたりはしないでしょう。悪意あるシナリオを責め、理不尽さを呪うはずです。 私もそういう気持ちがないでもありません。 しかし、私はその理不尽で無駄な美しさに感動し、 心にこのゲームを刻みこんだのです。だから、私はこのシナリオの悪意に感謝します。

で、終わってくれれば良かったのですが、最後がわけわかりません。 なにやら堤防に座ってます。神奈らしきものが空を飛んでます。しかし、 前にも述べた通り私はこのゲームに関して理屈を動員することを放棄したので、 これについては考えません。受けた印象が全てで、それ以上踏みこみません。 そして、受けた印象として納得できないものは、頭から追放します。 というわけで、観鈴と往人は死にました。 魂は不滅かもしれませんが、現象としては死にました。 神奈の魂は解放されたと信じますが、しかし観鈴と往人は死にました。 現実に晴子は無力感と悲しみにうちひしがれてこれからの人生 を生きるでしょう。いつか悲しみが薄れる日が来るにせよ、 彼女の生き様から考えてそれは遠い未来に思えます。だから、この話は 悲しい話です。この悲しさをまぎらわすためにリセット説をとなえるのに 私は反対しませんが、私は敢えてこれを採りません。 死んだのです。その方がこの話は私の中で大きな位置を占めるでしょう。

最後に

ノリノリで書いてます。止まりません。 たかが感想文でこれだけノリノリになれるあの作品は、 なんだかんだケチをつけられるにせよすごかったのです。


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